会計 所得税

個人事業のもれ易い経費!夫や妻の建物等を事業に使う場合

2020年11月22日

家族は一緒

個人事業の場合、夫の建物の一部を妻が事務所や店舗に使うなど、夫や妻の資産を事業に使うことはよくあることですが、所得税ではこの「同一生計親族間」のやり取りに対して経費の「特別ルール」を設けています。知らないと経費の計上もれなどが起こりやすい部分になっています。

そこで今回はそのような事がないように、夫婦間など「同一生計親族間」の経費の取扱いについて解説します。

同一生計親族間の経費に関する所得税の特別ルール

所得税では「同一生計親族間」の経費に「特別ルール」が適用されます。

参考 同一生計とは

同一生計(生計を一にする)とは「お財布が一緒」ということです。

  • 同居をしていれば、明らかに別生計の場合を除き「同一生計」になります。
  • 同居をしていなくても(夫が単身赴任、子供が大学生で上京、親が入院)仕送りをするなど「お財布が一緒」なら「同一生計」になります。

「同一生計親族間」のよくあるパターンは、夫がサラリーマンで、妻が自宅で事業を始める以下のようなケースです。

具体例

  • 自宅である建物の名義が夫⇒妻が建物の一部を事務所や店舗として使用
  • 電気、ガス、水道の名義が夫⇒妻が水道光熱費を一部、事業に使用
  • 自動車の名義が夫⇒妻が自動車を一部、事業に使用

上記のように人のものを使う場合、「第三者間」であれば通常、家賃、電気ガス水道使用料、自動車賃借料を支払って、支払った金額が必要経費になりますが、夫婦のように「同一生計親族間」の場合、所得税では以下のような「第三者間」とは異なる「ルール」が適用されます。

具体例の取扱い

  • 妻が夫に支払う家賃、電気ガス水道使用料、自動車賃借料⇒妻の必要経費にできない
  • 夫が他人に支払う夫名義の建物経費(取得費、税金、保険料など)、水道光熱費(電気代、ガス代、水道代)、自動車経費(取得費、税金、保険料など)⇒妻の必要経費にできる

夫婦(同一生計親族)はお財布が一緒なので一体として取扱うルールになっています。(個人単位課税の原則の例外、世帯単位課税)

夫婦一体なので妻が夫に家賃などを払っても自分が自分に払ったように必要経費にできません。逆に夫が払う夫名義の経費でも妻が払ったように妻の必要経費にできます

同一生計親族間のルール

お財布が一緒なので夫婦は一体(妻⇒夫)⇒他人

  • 夫婦間の経費⇒内部取引⇒妻の必要経費にできない
  • 夫婦他人間の経費⇒外部取引⇒妻の必要経費にできる(夫名義の経費でも)

※同一生計なら親子間などでも同じ取扱い。

このようなルールになっているのは夫婦間(同一生計親族間)での利益操作を排除する為です。

お財布が一緒の夫婦間では家賃などを恣意的に操作して税率が低い方へ所得を移転させる利益操作が可能です。ですのでお財布が一緒の夫婦を一体として取扱って利益操作を排除し、他人に払った利益操作の余地がない経費を必要経費に算入させるようにしています。

先ほどの例を使って妻の必要経費をもう少し具体的に見ていきましょう。

同一生計親族の建物、自動車を使う場合の具体的経費

先ほどの例をまとめると以下の通りです。妻の必要経費にできるものが意外と多いことが分かると思います。

妻が使う夫名義のもの妻の必要経費にできないもの
妻が夫に払う経費
妻の必要経費にできるもの
夫が他人に払う夫名義の経費
建物家賃建築代金(建設会社)
借入金利子(銀行)
固定資産税(市区町村)
火災保険料(保険会社)
修繕費(建設会社)
その他建物に係る経費
水道光熱費電気使用料
ガス使用料
水道使用料
電気代(電力会社)
ガス代(ガス会社)
水道代(市区町村)
自動車自動車賃借料購入代金(販売会社)
割賦利子(信販会社)
自動車税(都道府県)
自動車保険料(保険会社)
車検代(整備会社)
修繕費(整備会社)
ガソリン代(スタンド)
その他自動車に係る経費

夫婦間で家賃などのやり取りをすることはあまりないかもしれませんが、夫名義の経費で自分では払ってないので必要経費にしていなかった(税金の払い過ぎ)というのは結構あります。

自分で払ってなくても同一生計親族の経費なら事業に使っていれば必要経費にできます。

妻の必要経費の具体的な計算は以下のように行います。

妻の必要経費

夫名義の経費※ × 妻の事業に使用した割合

※建物の建築代金と自動車の購入代金は「減価償却費」

妻の事業に使用した割合は減価償却のように法律で計算のしかたが決められているわけではないので以下のような実態に合った合理的な方法で計算します。

妻の事業に使用した割合

  • 建物・・・床面積割合、使用時間割合などで計算
  • 水道光熱費・・・使用量割合などで計算
  • 自動車・・・走行距離割合などで計算

例えば2階建建物で1階を店舗にしているような場合
2階自宅・・・50%(床面積)が家事割合
1階店舗・・・50%(床面積)が事業割合

1階を半日事務所として使っているような場合
2階自宅・・・50%(床面積)×100%(使用時間)=50%が家事割合
1階事務・・・50%(床面積)× 50%(使用時間)=25%が家事割合、50%(床面積)× 50%(使用時間)=25%が事業割合

上記のように個々の状況に応じた合理的な方法で計算します。電気代の事業割合を「床面積割合×使用時間割合」で計算することもあります。事業主の食事は家事費で必要経費にならないのでそれに要した分は水道光熱費の事業割合から除外します。事業主の自宅と職場の通勤は必要経費になりますので自動車の走行距離などの事業割合に含めます。

妻の必要経費の仕訳をする時は、夫名義の経費で自分では払ってないので経費の相手勘定科目を「事業主借」勘定で処理します。

妻の必要経費の仕訳

例えば固定資産税であれば、(租税公課)/(事業主借)と仕訳します。

夫名義の経費(同一生計親族名義の経費)に乗ずる妻の事業に使用した割合(事業割合)の具体的な計算のしかた(家事関連費の家事按分のしかた)について詳しくは以下の記事をご覧ください。

要明確区分!
家事関連費の必要経費(家事按分)は客観的明確区分要件注意

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最後に今まで解説した同一生計親族間の経費の取扱いに関する根拠条文を見ていきましょう。

同一生計親族間の経費の取扱いに関する根拠条文

同一生計親族間の経費の取扱いは所得税法第56条で以下のように規定されています。

所得税法

(事業から対価を受ける親族がある場合の必要経費の特例)
第五十六条 居住者と生計を一にする配偶者その他の親族がその居住者の営む不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合には、その対価に相当する金額は、その居住者の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入しないものとし、かつ、その親族のその対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額は、その居住者の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入する。この場合において、その親族が支払を受けた対価の額及びその親族のその対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額は、当該各種所得の金額の計算上ないものとみなす。

要件は黄色マーカー、取扱いは青色と赤色マーカー。上述した具体例に当てはめると。

  • 居住者・・・妻(事業主)
  • 親族・・・夫(建物、水道光熱費、自動車の名義人)
  • 対価・・・妻が夫に払う経費(家賃、電気ガス水道使用料、自動車賃借料)
  • その親族のその対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額・・・夫が他人に払う夫名義の経費(建物の減価償却費、固定資産税など)

今まで夫婦間の建物、自動車の貸し借りを例に解説しましたが、条文では以下のようになっています。

  • 居住者と生計を一にする配偶者その他の親族・・・夫婦に限らず生計を一にする親族が対象になっています。ですので同一生計なら親子などにも適用されます。
  • 事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合・・・家賃などに限らず全ての対価が対象になっています。ですので同一生計親族間では給料も必要経費にできません。ただし、給料に関しては要件を満たせば、青色事業専従者給与、事業専従者控除の適用を受けることができます。

条文では親族に対価(家賃など)を払ってる場合を前提にしているので親族に対価(家賃など)を払ってなければ親族の経費(固定資産税など)を必要経費にできないのでは?と疑問が生じますが、親族に対価(家賃など)を払ってなくても親族の経費(固定資産税など)を必要経費にできることが以下の通達で規定されています。

所得税基本通達

(親族の資産を無償で事業の用に供している場合)

56-1 不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業を営む居住者と生計を一にする配偶者その他の親族がその有する資産を無償で当該事業の用に供している場合には、その対価の授受があったものとしたならば法第56条の規定により当該居住者の営む当該事業に係る所得の金額の計算上必要経費に算入されることとなる金額を当該居住者の営む当該事業に係る所得の金額の計算上必要経費に算入するものとする。

生計を一に関しては以下の通達が出ています。

所得税基本通達

(生計を一にするの意義)

2-47 法に規定する「生計を一にする」とは、必ずしも同一の家屋に起居していることをいうものではないから、次のような場合には、それぞれ次による。

(1) 勤務、修学、療養等の都合上他の親族と日常の起居を共にしていない親族がいる場合であっても、次に掲げる場合に該当するときは、これらの親族は生計を一にするものとする。

 イ 当該他の親族と日常の起居を共にしていない親族が、勤務、修学等の余暇には当該他の親族のもとで起居を共にすることを常例としている場合

 ロ これらの親族間において、常に生活費、学資金、療養費等の送金が行われている場合

(2) 親族が同一の家屋に起居している場合には、明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる場合を除き、これらの親族は生計を一にするものとする。

まとめ

いかがだったでしょうか。同一生計親族間に適用される所得税の特別ルール。経費の計上もれにご注意ください。

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