会計 所得税

家事関連費の必要経費(家事按分)は客観的明確区分要件注意

2021年5月14日

要明確区分!

個人事業の場合、自宅兼店舗の水道光熱費や仕事とプライベート両方で使う携帯電話料金など事業と家計の両方に係る費用(家事関連費)が結構ありますが、計上がもれていたり、あるいは100%計上して税務調査で否認されたりと誤りが多い箇所になっています。

そこで今回は、家事関連費にはどのようなものがあって、どのように計算するのかなど、家事関連費の必要経費算入要件である「客観的明確区分要件」を中心に詳しく解説します。

家事関連費とは

個人事業者は、事業(仕事)と生活(プライベート)の両方の側面を持っているので、その支出も事業の為の支出(所得税では「必要経費」といいます)と生活の為の支出(所得税では「家事費」といいます)の両方が出てきます。そして、その必要経費と家事費が混在した支出のことを所得税では「家事関連費」といいます。

所得税では、家事費は必要経費にできない(生活費で事業と関係ないので)。家事関連費は原則必要経費にできない(生活費が混じっているので)、例外的に必要経費にできる(生活費との明確な線引きができれば)。という取扱いになっています。

家事関連費とは

  • 必要経費・・・事業の為の支出(仕入や給料などの売上原価、販管費)
  • 家事費・・・生活の為の支出(衣食住、娯楽、教養などの生活費)
  • 家事関連費・・・必要経費と家事費が混在した支出(自宅兼店舗、家庭事業兼用の電話や自動車の費用)

家事関連費の具体例

家事関連費は具体的には以下のようなものがあります。家事関連費は他にも交際費など広範囲に及びますが、今回は以下の家事関連費について見ていきます。

事業分と家事分(生活費)が混在した家事関連費
建物費用(自宅兼店舗、事務所)借家・家賃、更新料
建物費用(自宅兼店舗、事務所)持ち家・減価償却費(取得価額)
・借入金利息(住宅ローン)
・固定資産税
・火災保険料
・修理代など
水道光熱費(自宅兼店舗、事務所)・電気代
・ガス代
・水道代
通信費(家庭事業兼用)・電話代
・インターネット代
自動車費用(家庭事業兼用)・駐車場代
・減価償却費(取得価額)
・割賦利息(割賦払い)
・自動車税
・自動車保険料
・車検代、修理代
・ガソリン代など

家事関連費は上記のように項目が多いので、経費計上できるのに計上していなかったというケースが結構あります。上記表で計上もれがないか再確認してみましょう。

関連記事上記の家事関連費の名義が家族名義(夫名義、妻名義、親名義、子名義)の場合でも同一生計なら自分の経費として計上できます。同一生計親族名義の経費について詳しくは以下の記事をご覧ください。

関連記事上記の家事関連費となる減価償却費に関して、今まで家事用に使ってきた非業務用資産(自宅やマイカー)を途中から業務用(事務所や営業車)に使う場合(転用)、非業務用期間(転用前)の減価償却の計算のしかたが通常の場合と異なります。転用した場合の減価償却の計算のしかたについて詳しくは以下の記事をご覧ください。

家事関連費の必要経費の要件

先程簡単に触れましたが、家事関連費を必要経費にする為には要件があります。要件は以下の通りです。(所得税基本通達を加味した実務上の要件です)

必要経費の要件

  • 業務遂行上必要
  • 業務遂行上必要な部分を客観的に明確に区分することができる
    必要経費と家事費を客観的に明確に区分することができる
    客観的明確区分要件

家事関連費は、上記要件を全て満たす場合に限り、業務遂行上必要な部分(必要経費部分)のみを必要経費にすることができます。要件を満たさない場合は、業務遂行上必要な部分があったとしても必要経費にすることはできません。以下で注意点を見ていきましょう。

家事関連費は原則必要経費不算入、例外必要経費算入

家事関連費は事業に関係があるので、当然必要経費になると考えられがちですが、そうではありません。先程「家事関連費とは」のところで簡単に触れましたが、所得税では家事関連費は原則、必要経費にできません(生活費が混じっているので)。必要経費と家事費を明確に区分することができる場合に限って(生活費との明確な線引きができれば)必要経費部分だけ例外的に必要経費にすることを認めるという取扱いになっています。

客観的に明確に区分することができるという要件客観的明確区分要件)を考えずに、事業に関係があるからと安易に必要経費にすると税務調査で否認されますので注意が必要です。

客観的に明確に区分できなければ必要経費にできない

家事関連費は必要経費と家事費を客観的に明確に区分できなければ必要経費にすることはできませんが、家事関連費を必要経費と家事費に明確に区分できないケースは少なくありません

例えば、同窓会に営業の目的で行った場合、同窓会の会費は家事関連費(営業と親睦)ですが、必要経費部分(営業)と家事費部分(親睦)を客観的に明確に区分することができないので必要経費にできません。

事業に関係があるので事業用割合を乗じれば事業部分を区分できると考えるのも間違っています。上記のように、そもそも客観的に明確に区分できない(客観的な事業用割合を計算できない)ケースもかなりあります。そのような場合は、たとえ事業に必要な部分があったとしても必要経費にできないので注意が必要です。

主観的では必要経費にできない

必要経費と家事費の区分も主観的(自分が見て)ではなく客観的に(誰が見ても)行う必要があります。

家庭電話を20%事業に使っていると主観的に主張しても、通話明細など客観的な証拠を提示できなければ税務調査で否認されることもありますので注意が必要です。

家事関連費の注意点

  • 客観的明確区分要件がある
  • 明確に区分できないケースもある(同窓会費など、事業部分があっても必ず必要経費にできるわけではない)
  • 客観的に区分の証拠が重要(主観は禁物)

以下で、家事関連費の種類ごとに、客観的明確区分要件を満たす具体的な区分のしかた(家事按分のしかた)について見ていきましょう。

家事按分とは

  • 家事関連費を必要経費と家事費に区分することを家事按分といいます。
  • 家事按分のしかたは、減価償却のように法律で決まっているわけではないので、実態に応じた合理的な方法で按分します。

建物費用(自宅兼店舗、事務所)の家事按分のしかた

建物関連の家事関連費には先程「家事関連費の具体例」で掲げた自宅兼店舗、自宅兼事務所の以下の費用があります。

借家なら

  • 家賃、更新料

持ち家なら

  • 減価償却費(取得価額を耐用年数で按分した費用)
  • 借入金利息(借入金の元金は必要経費になりません)
  • 固定資産税
  • 火災保険料
  • 修理代など

建物関連のこれら家事関連費を必要経費と家事費に客観的に明確に区分する方法(家事按分のしかた)は、以下の方法が合理的であると考えられます。

建物費用の家事按分のしかた

上記家事関連費(家賃、減価償却費など)に以下の按分比率(建物の使用割合)を乗じて按分します。

按分比率(建物の使用割合)

  • 床面積の比率(証拠:図面)
    事業分:事業専用部分の床面積/総床面積
    家事分:事業分を除いた残り
    (具体例)1階店舗70㎡、2階住居60㎡、共用(廊下、トイレ等)20㎡
    (事業分)70㎡/150㎡=46.7%
    (家事分)100%ー46.7%=53.3%
  • 使用時間の比率(証拠:営業時間など客観的な時間、就業時間が不規則な場合は記録した時間)
    事業分:使用日数割合×使用時間割合
    家事分:事業分を除いた残り
    (具体例)週5日8時間営業
    (事業分)(5日/7日)×(8時間/24時間)=23.8%
    (家事分)100%ー23.8%=76.2%

家事関連費が客観的に明確に区分されているか(客観的明確区分要件を満たすか)という視点で詳しく見ていきましょう。

事業専用部分(店舗、事務所)がある場合

2階建て建物で1階が店舗(事務所)で、2階が住居の場合、店舗が飲食店の場合は店舗部分には厨房設備やテーブル・イスがあります。小売店の場合は商品が陳列されてレジがあります。美容室の場合もシャンプー台やレジがあります。事務所の場合もデスクや収納、応接スペースがあります。このような場合、誰が見てもそこは事業専用スペースで、生活の場ではないことが分かります。このように仕事場と生活の場が明確に区分されている場合は、床面積の比率で、事業分と家事分を客観的に明確に区分することができます。(容易に客観的明確区分要件を満たすことができます)

共用部分(廊下、トイレ等)の取扱い

飲食店内や美容室店内にあるトイレのように事業専用スペースにある場合は、上記と同様、来客や従業員の為の事業用だということが分かりますが、住居スペースにある廊下やトイレ等の場合、家族も利用するので、事業分を客観的に明確に区分することは難しくなります。ですので事例集などではそのような共用部分は含めないで事業分を計算しています。

ただし、共用部分でも、家族が少なく従業員が多い場合は、次のような計算も成り立つかもしれません。(あくまで状況によります)

(具体例)共用部分(廊下、トイレ等)20㎡、総床面積150㎡、週5日8時間営業、家族なし、来客なし、事業主1人、従業員3人の計4人で利用
(事業分)床面積割合(20㎡/150㎡)×日数割合(5日/7日)×時間割合(8時間/24時間)×人数割合(3人※/4人)=事業用割合2.4%
※事業主のトイレを食事と同様、家事費と考え除外(見解が分かれる?)

いずれにしても、共用部分を含めて事業分を計算する場合は、税務調査での否認リスクを考慮して、家族(家事分)、来客や従業員(事業分)の人数、利用状況など、それなりの根拠(客観的に明確に区分)が必要になると考えられます。

生活の場(居間)で時折、記帳などをする場合

生活の場である居間で、時折、帳簿作成などを行う場合も、家族が食事をとったり、テレビを見たり、くつろいだりするスペースや時間の中での帳簿を作成するスペースと時間なので、その部分を客観的に明確に区分することは難しいです。ですので、こちらも上記共用部分と同様、事例集などでは事業分から除かれています。

対応策としては、家族大勢が利用する居間ではなく、事務作業や書類を保管する事務室を設けて、作業時間、作業内容を記録するなど、事業分を客観的に明確に区分(証明)しやすい状況にしておく等が考えられます。(実態がないとだめですが。次で解説)

(具体例)事務室10㎡、総床面積150㎡、週5日営業後、1時間帳簿作成
(事業分)床面積割合(10㎡/150㎡)×日数割合(5日/7日)×時間割合(1時間/24時間)=事業用割合0.2%(営業後の帳簿作成分)

同様のことは、ワンルームマンションのように仕事場と生活の場が区分されておらず、就業時間が不規則な場合にも言えます。このような場合も、事業分と家事分を客観的に明確に区分することは難しくなりますので、税務調査での否認リスクを考慮して、就業時間、業務内容を記録するなど、それなりの対策が必要になると考えられます。

事業専用部分(事務室)に実態がない場合

事務室など事業専用スペースを設ければ、事業分を客観的に明確に区分することができるようになるのか(事務室部分を100%事業分とすることができるのか)、と言えばそうではありません。「納税者の不動産賃貸業のうちに40㎡もの空間を常時利用して行うべき業務があったとは認められない。」とされた事例があるように、いくら事業専用に使っていると主観的に主張しても、事務作業の時間や来客頻度などからして事業に使っている実態が乏しい場合は、そもそもその部屋の事業分を客観的に明確に区分していないということになりますので、あくまで形だけではなく、実態に応じた合理的な区分が要求されます。

水道光熱費(電気、ガス、水道)の家事按分のしかた

水道光熱費の家事関連費には先程「家事関連費の具体例」で掲げた自宅兼店舗、自宅兼事務所の以下の費用があります。

  • 電気代
  • ガス代
  • 水道代

水道光熱費のこれら家事関連費を必要経費と家事費に客観的に明確に区分する方法(家事按分のしかた)は、以下の方法が合理的であると考えられます。

水道光熱費の家事按分のしかた

上記家事関連費(電気代、ガス代、水道代)に以下の按分比率(水道光熱費の使用割合)を乗じて按分します。

按分比率(水道光熱費の使用割合)

  • 使用量の比率(証拠:実際測定資料、見積測定資料)
    事業分:事業の使用量/総使用量
    家事分:事業分を除いた残り
  • 建物の使用割合(床面積の比率、使用時間の比率)を準用(証拠:客観的明確区分要件を満たす建物の使用割合)
    事業分:建物の使用割合の事業使用割合
    家事分:事業分を除いた残り
    ただし、適宜実態に合っているか検討が必要

家事関連費が客観的に明確に区分されているか(客観的明確区分要件を満たすか)という視点で詳しく見ていきましょう。

使用量の比率が最も客観的で明確な区分

水道光熱費の按分は、事業の使用量と家事(生活)の使用量を測定して、その比率で按分するのが最も客観的で明確な区分になりますが、現実的には困難です。そこで実務では以下の方法が使われています。

建物の使用割合を準用、適宜実態に合っているか検討が必要

実務では建物の使用割合を準用する場合が多いです。判例でも水道光熱費の按分に建物の使用割合(その割合が客観的明確区分要件を満たすのであれば)を準用することを認めています。

ただし、建物の使用割合はあくまで建物の使用割合で、水道光熱費の使用割合とは異なりますので、適宜、実態に合っているか検討することが必要です。

例えば、1階店舗(事務所)70㎡、2階住居70㎡、店舗週5日8時間営業、起きてる時間16時間の場合

建物の使用割合は床面積割合で各50%が合理的(客観的で明確な区分)です。営業時間外でも飲食店なら厨房設備やテーブル、イスが置かれ、24時間そのスペースを使用しているので時間的な要素を加味する必要はありません。

ですが、電気代の使用割合は、照明、コンセント、エアコンなどが一定の面積ごと(部屋ごと)に設置される点で床面積割合は合理的ですが、電気は24時間ではなく基本的に起きているとき、営業しているときに使うので使用時間を加味しないと実態に合っていません。床面積割合(50%)×営業日数割合(5日/7日)×営業時間割合(8時間/16時間)=17.8%※が合理的(客観的で明確な区分)です。(ただし、この計算も店の営業時間中に住居で家族が同じように電気を使用していることが前提で、営業時間中に住居に人がいない場合は単純に時間割合になると思います。)

また、ガス代や水道代の使用割合は、基本的に床面積割合と関係がなく、店舗が飲食店や美容室の場合(家族や来客、従業員数にもよりますが)、店舗使用割合は住居使用割合より多くなって50%を超えるでしょうし、逆に事務所の場合(家族や来客、従業員数にもよりますが)、事務所使用割合は住居使用割合より少なくなって50%を下回ると考えられますので、状況にあった合理的な計算方法(客観的で明確な区分)を考える必要があります

※国税庁の在宅勤務費用のFAQの「電気料金に係る業務使用部分の計算方法」でも同じような計算(床面積割合×使用日数割合×使用時間割合)がされていますので参考になるのではないでしょうか。
リンク:在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(国税庁ホームページ)

自宅兼事務所のガス代、水道代

自宅兼事務所で来客や従業員(事業分)がなく、1人で事業を行っている場合、ガス代はキッチン(食事)、洗面、風呂。水道代もキッチン(食事)、洗面、トイレ、洗濯、風呂など、自分や家族の家事費です。事業で水道やガスを使わない限り、必要経費にはならないと考えられます。仮に洗面トイレを家事関連費と考えたとしても、必要経費と家事費を客観的に明確に区分することは難しいのではないでしょうか。

自宅兼事務所のガス暖房代

上記のように普段はガス代の事業使用がない場合でも、冬期中だけガス暖房で事業使用が出てくる場合もあります。そのような場合は、ガス暖房使用前と使用後のガス料金の差額から暖房部分を特定して、ガス代の内の暖房割合を計算し、事業使用面積割合、事業使用時間割合を乗じれば、ガス代の事業使用割合を計算することができます。それなりに客観的に明確に区分されていると考えられますので、冬期中だけガス代の事業分を計上することは可能だと考えられます。

通信費(電話、ネット)の家事按分のしかた

通信費の家事関連費には先程「家事関連費の具体例」で掲げた家庭事業兼用の以下の費用があります。

  • 電話代
  • インターネット代

通信費のこれら家事関連費を必要経費と家事費に客観的に明確に区分する方法(家事按分のしかた)は、以下の方法が合理的であると考えられます。

通信費の家事按分のしかた

上記家事関連費(電話代、インターネット代)に以下の按分比率(通信費の使用割合)を乗じて按分します。

按分比率(通信費の使用割合)

  • 使用時間の比率(証拠:通話明細、営業時間、記録した時間)
    事業分:事業の使用時間/総使用時間
    家事分:事業分を除いた残り

家事関連費が客観的に明確に区分されているか(客観的明確区分要件を満たすか)という視点で詳しく見ていきましょう。

電話代は通話明細が最も客観的で明確な区分

電話代は通話明細で事業分と家事分を区分するのが最も客観的で明確な区分になります。基本料もその比率で按分します。電話代は通話明細が動かぬ証拠になるので、先程の水道光熱費のように実態に合った按分方法を検討する必要がありません。(容易に客観的明確区分要件を満たすことができます)ただし、毎月の按分作業は煩雑です。状況によって、一定期間の実績の平均使用割合を使うのも合理的(客観的で明確な区分)だと考えられます。

インターネット代は使用時間で按分

インターネット代(回線、プロバイダ、通信)は使用時間で按分します。ネットは電気(基本的に)と同じく24時間使うわけではなく、起きているときに使うので、例えば、週5日8時間営業、起きてる時間16時間の場合、営業日数割合(5日/7日)×営業時間割合(8時間/16時間)=35.7%※のように事業分を計算するのもある程度合理的(客観的で明確な区分)ではないでしょうか。(ネットを頻繁に使う業種か、使わない業種かなど状況にもよりますが)

※国税庁の在宅勤務費用のFAQの「通信費に係る業務使用部分の計算方法」でも同じような計算(使用日数割合×使用時間割合)がされていますので参考になるのではないでしょうか。
リンク:在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(国税庁ホームページ)

自動車費用(ガソリンなど)の家事按分のしかた

自動車関連の家事関連費には先程「家事関連費の具体例」で掲げた家庭事業兼用の以下の費用があります。

  • 駐車場代
  • 減価償却費(取得価額を耐用年数で按分した費用)
  • 割賦利息(割賦払いの元金は必要経費になりません)
  • 自動車税
  • 自動車保険料
  • 車検代、修理代
  • ガソリン代など

自動車関連のこれら家事関連費を必要経費と家事費に客観的に明確に区分する方法(家事按分のしかた)は、以下の方法が合理的であると考えられます。

自動車費用の家事按分のしかた

上記家事関連費(減価償却費、ガソリン代など)に以下の按分比率(自動車の使用割合)を乗じて按分します。

按分比率(自動車の使用割合)

  • 走行距離の比率(証拠:記録した走行距離)
    事業分:事業の走行距離/総走行距離
    家事分:事業分を除いた残り

家事関連費が客観的に明確に区分されているか(客観的明確区分要件を満たすか)という視点で詳しく見ていきましょう。

走行距離が最も客観的で明確な区分

自動車は走行距離が使った分なので、自動車関連の費用は、事業で使った走行距離とプライベートで使った走行距離の比率で按分するのが最も客観的で明確な区分になります。

走行距離の比率は、自動車の使用パターンが決まってる場合は、事業に何にどれだけ使うのか、プライベートに何にどれだけ使うのかを洗い出して計算するのもある程度合理的(客観的で明確な区分)かもしれませんが、出張などで自動車の使用パターンが不規則になる場合もありますので、事業に使った日付、行先、距離数などを記録して計算するのが最も合理的な方法(客観的で明確な区分)になります。状況によって、一定期間の実績の平均使用割合を使うのも合理的(客観的で明確な区分)だと考えられます。

ETC(高速代)は基本按分しない

ETCは利用目的(行先)が事業なら必要経費、プライベートなら家事費とどちらかに分かれる場合が多いので、基本的に按分はありません。事業用とプライベート用でETCカードを使い分けると処理がしやすくなります。(プライベート分を除く手間が省けます)また、ETCは基本按分がないので、按分が必要な他の自動車関連の費用と勘定科目、補助科目を分けると処理がしやすくなります。(例えば、車両費にETCが混じっているとETCを除いてから按分比率を乗じなければなりませんが、ETCが入ってなければ車両費の合計に按分比率を乗じることができます。)

ETCの家事関連費に関する判例をご紹介。故郷に帰省する途中、サービスエリアに立ち寄って、得意先のお歳暮を買ったという事例。ETCは事業分(お歳暮)と家事分(帰省)が混在した家事関連費ですが、事業分と家事分を明確に区分できない(客観的明確区分要件を満たさない)ので必要経費にできないとされました。

家事関連費の根拠条文

最後に、家事関連費が条文上どのように規定されているか見ていきましょう。(興味がある方のみ)

所得税法第45条

所得税法では「家事費」及び所得税法施行令で規定する「家事関連費で必要経費にできるもの以外」(家事関連費で明確に区分できるもの以外)は必要経費にできないと規定しています。

所得税法第45条

(家事関連費等の必要経費不算入等)
第四十五条 居住者が支出し又は納付する次に掲げるものの額は、その者の不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上、必要経費に算入しない
 家事上の経費及びこれに関連する経費で政令で定めるもの

所得税法施行令第96条

所得税法施行令では「家事関連費で必要経費にできるもの」について、以下の2つを規定しています。

  • 主たる部分が業務遂行上必要」かつ「業務遂行上必要な部分を明確に区分することができる」・・・白色申告者、青色申告者
  • 業務遂行上直接必要」かつ「業務遂行上必要な部分を明確に区分することができる」・・・青色申告者

青色申告者の場合、「主たる部分が業務遂行上必要」という制約を除外したパターンも認められています。白色申告者は、必要経費部分が50%超ないと、必要経費部分が明確に区分されていても必要経費にすることができないが、青色申告者の場合、必要経費部分が50%超なくても、必要経費部分が明確に区分されていれば必要経費にすることができる。という内容になっています。(ただし、所得税基本通達で、この青色申告者と白色申告者の取扱いの違いは取り除かれています。後述

所得税法施行令第96条

(家事関連費)
第九十六条 法第四十五条第一項第一号(必要経費とされない家事関連費)に規定する政令で定める経費は、次に掲げる経費以外の経費とする。
 家事上の経費に関連する経費の主たる部分が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合における当該部分に相当する経費
 前号に掲げるもののほか、青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者に係る家事上の経費に関連する経費のうち、取引の記録等に基づいて、不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき業務の遂行上直接必要であつたことが明らかにされる部分の金額に相当する経費

所得税基本通達45-2

所得税法施行令では、青色申告者と白色申告者で取扱いに違いを設けていますが、所得税基本通達で「主たる部分が」という制約が取り除かれ、青色申告者と白色申告者で同様の取扱いになるようになっています。この所得税基本通達の取扱いを加味した実務上の家事関連費の必要経費の要件が、この記事の最初の部分で解説した「家事関連費の必要経費の要件」になります。

必要経費の要件

  • 業務遂行上必要
  • 業務遂行上必要な部分を客観的に明確に区分することができる
    (必要経費と家事費を客観的に明確に区分することができる)
    (客観的明確区分要件)

「客観的に」というのは判例で示されています。

所得税基本通達45-2

(業務の遂行上必要な部分)
45-2 令第96条第1号に規定する「主たる部分が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の遂行上必要」であるかどうかは、その支出する金額のうち当該業務の遂行上必要な部分が50%を超えるかどうかにより判定するものとする。ただし、当該必要な部分の金額が50%以下であっても、その必要である部分を明らかに区分することができる場合には、当該必要である部分に相当する金額を必要経費に算入して差し支えない

「所得税基本通達逐条解説」ではこの通達の趣旨を以下のように解説しています。

令第96条では、第1号で「主たる部分が業務の遂行上必要」であることを条件としている一方、第2号では、青色申告者に限って、「主たる部分」という制約を除外しているが、主たる部分が業務の遂行上必要といえないとしても、必要部分が区分できる場合には白色申告者だからといって必要経費算入を認めないとするのは不合理となるから、本通達は、実際上は、白色申告者についても青色申告者と同様の扱いを受けることとしたものである

「所得税基本通達逐条解説」(大蔵財務協会)から引用

所得税基本通達45-1

家事関連費の区分を家族(家事分)や使用人(事業分)の人数なども加味して総合的に行うよう規定しています。

所得税基本通達45-1

(主たる部分等の判定等)
45-1 令第96条第1号《家事関連費》に規定する「主たる部分」又は同条第2号に規定する「業務の遂行上直接必要であったことが明らかにされる部分」は、業務の内容経費の内容家族及び使用人の構成、店舗併用の家屋その他の資産の利用状況等を総合勘案して判定する。

まとめ

いかがだったでしょうか。今回は家事関連費の必要経費算入要件である客観的明確区分要件を中心に解説しました。実務では概ね何%と処理する場合が多いですが、それでも客観的明確区分要件を検討したうえでの概ねと、何も検討せず無防備な状態での概ねとでは税務調査のときに違ってきます。客観的明確区分要件にはご注意を。

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