令和2年分年末調整は所得金額調整控除やひとり親控除の創設など大幅な改正がありました。
そこで今回は令和2年分年末調整の改正項目について、一通りマスター出来るように改正趣旨も含め網羅的に解説します。(国税庁FAQの重要部分についても整理してあります)
令和2年分(2020年分)年末調整の改正の概要
令和2年分年末調整の改正は項目は多いですが、改正趣旨によって大きく2つのグループに分かれます。(以下の働き方、寡婦)
改正の概要
- 働き方の多様化を後押しする為の改正
・「給与所得控除」・・・・一律10万円引下げ+控除上限引下げ
・「公的年金等控除」※・・一律10万円引下げ+控除上限新設+控除逓減新設
・「基礎控除」・・・・・・一律10万円引上げ+控除逓減新設+控除ゼロ新設
・「配偶者控除」「扶養控除」等の所得要件・・一律10万円引上げ
・「所得金額調整控除」の創設 - 寡婦(寡夫)控除の不公平を是正する為の改正
・「ひとり親控除」の創設
・「寡婦(寡夫)控除」の見直し
※「公的年金等控除」は年末調整とは直接関係ありませんが所得税の改正の一部で一体的に理解する必要があるので上記「改正の概要」に入れてあります。
1.の働き方に関する改正では働き方の多様化を後押しする為にサラリーマンや年金所得者など特定の所得に適用される「給与所得控除」や「公的年金等控除」を減らし、フリーランスや自営業者など全ての人に適用される「基礎控除」を増やす改正が行われました。これによりサラリーマンや年金所得者などは控除の振替(給・年△10万円、基+10万円)で税負担の増減はありませんが、一方のフリーランスや自営業者などは基礎控除のアップで税負担が軽減されることになりました。
それと同時に各控除で高所得者に対する課税強化が行われました。給与所得控除(控除上限引下げ)、公的年金等控除(控除上限新設+控除逓減新設)、基礎控除(控除逓減新設+控除ゼロ新設)。これによりサラリーマンや年金所得者、フリーランスや自営業者でも高所得者は税負担が増加することになりました。
上記改正に伴い「配偶者控除」「扶養控除」等の合計所得金額要件が全て10万円引上げられました。
同じく上記改正に伴い「所得金額調整控除」が創設されました。
2.の寡婦に関する改正では性別や婚姻歴による控除額の不公平を是正する為に「寡婦(寡夫)控除」の統廃合が行われ「ひとり親控除」が創設されました。
令和2年分年末調整の改正では上記改正以外に年末調整の電子化に関する改正も行われました。年末調整の電子化については以下の記事で詳しく解説していますのであわせてご覧ください。
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以下で改正の詳細を見ていきます。
給与所得控除の改正
給与所得控除の改正は以下の通りです。
- 控除額が一律10万円引下げられました。(基礎控除の10万円引上げにより税負担の増減はありません)
- 控除上限額が適用される給与収入が1,000万円から850万円に引下げられ、控除上限額が220万円から195万円に引下げられました。
控除上限額の引下げで年収850万円超の人は税負担が増加することになります。(年収850万円超1,000万円以下で10%控除を受けられていた分がなくなりました)
給与等の収入金額 | 改正前 給与所得控除額 | 改正後 給与所得控除額 | 変更点 |
~1,625,000円 | 650,000円 | 550,000円 | 減額 |
1,625,001~1,800,000 | 収入金額×40% | 収入金額×40%-100,000 | 〃 |
1,800,001~3,600,000 | 収入金額×30%+180,000 | 収入金額×30%+80,000 | 〃 |
3,600,001~6,600,000 | 収入金額×20%+540,000 | 収入金額×20%+440,000 | 〃 |
6,600,001~8,500,000 | 収入金額×10%+1,200,000 | 収入金額×10%+1,100,000 | 〃 |
8,500,001~10,000,000 | 収入金額×10%+1,200,000 | 1,950,000(上限) | 〃 |
10,000,001~ | 2,200,000(上限) |
基礎控除の改正
基礎控除の改正は以下の通りです。
- 控除額が一律10万円引上げられました。
- 控除額が合計所得金額2,400万円超で逓減し2,500万円超でゼロになるようになりました。
- 合計所得金額によって控除額が変わる為、年末調整で控除を受ける為には「基礎控除申告書」の提出が必要になりました。
控除額の逓減で年収2,595万円※超の人は「給与所得控除の上限引下げによる税負担の増加」に加えさらに税負担が増加することになります。
※年収2,595万円-給与所得控除195万円=合計所得2,400万円
合計所得金額 | 改正前 基礎控除額 | 改正後 基礎控除額 | 変更点 |
2,400万円以下 | 38万円 | 48万円 | 増額 |
2,400万円超2,450万円以下 | 32万円 | 減額 | |
2,450万円超2,500万円以下 | 16万円 | 〃 | |
2,500万円超 | 0円 | 廃止 |
配偶者控除、扶養控除等の改正
「給与所得控除」「公的年金等控除」「基礎控除」の改正に伴って「配偶者控除」「扶養控除」等の合計所得金額要件が全て10万円引上げられました。
項目 | 改正前 合計所得金額要件 | 改正後 合計所得金額要件 | 変更点 |
源泉控除対象配偶者 | 85万円以下 | 95万円以下 | 増額 |
同一生計配偶者、扶養親族 | 38万円以下 | 48万円以下 | 〃 |
勤労学生 | 65万円以下 | 75万円以下 | 〃 |
配偶者特別控除の対象配偶者 | 38万円超123万円以下 | 48万円超133万円以下 | 〃 |
所得金額調整控除の創設
所得金額調整控除の概要
「給与所得控除」「公的年金等控除」「基礎控除」の改正に伴って生じる税負担の増加をなくす為に「所得金額調整控除」が創設されました。「所得金額調整控除」は調整の種類によって以下の2種類になります。
- 子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除⇒以下「所得金額調整控除(子ども等)」
- 給与所得と年金所得の双方を有する者に対する所得金額調整控除⇒以下「所得金額調整控除(年金等)」
まずは各控除の改正趣旨、要件、控除額について解説し、最後に各控除の年末調整での注意点について解説します。
所得金額調整控除(子ども等)
「給与所得控除の上限引下げ」の改正で年収850万円超の人は税負担が増加することになりましたが、子育て世帯や介護世帯の場合、必ずしも経済的に余裕があるとは限りません。そこでそのような子育てや介護でお金がかかる世帯の給与所得控除上限引下げによる税負担の増加をなくす為に「所得金額調整控除(子ども等)」が創設されました。
要件は以下の通りです。
子ども等の要件
その年の給与等の収入金額が850万円を超える居住者で以下に掲げる者
- 年齢23歳未満の扶養親族を有する
- 本人が特別障害者
- 特別障害者である同一生計配偶者、扶養親族を有する
共働き世帯で扶養親族を有する場合、「扶養控除」は夫婦どちらか一方でしか控除を受けられません(夫△38万円、妻△0万円)が、「所得金額調整控除(子ども等)」は夫婦両方で控除を受けられます(夫△15万円、妻△15万円)。控除もれにご注意ください。
控除額は「給与所得控除の上限引下げ」の改正でなくなった「年収850万円超1,000万円以下で10%控除を受けられていた分」になります。
子ども等の控除額
(給与等の収入金額※-850万円)×10%
※1,000万円を超える場合は1,000万円
所得金額調整控除(年金等)
「給与所得控除」「公的年金等控除」の一律10万円引下げ、「基礎控除」の一律10万円引上げの改正で給与所得のみ、年金所得のみの人の場合は控除の振替(給・年△10万円、基+10万円)で税負担の増減はありませんが、給与所得と年金所得両方ある人の場合はダブルで10万円引下げ(給△10万円、年△10万円、基+10万円)になり税負担が増加することになります。そこでそのような給与所得と年金所得両方ある人の2重の控除引下げによる税負担の増加をなくす為に「所得金額調整控除(年金等)」が創設されました。
要件は以下の通りです。
年金等の要件
その年の給与所得控除後の給与等の金額及び公的年金等に係る雑所得の金額がある居住者で給与所得控除後の給与等の金額及び公的年金等に係る雑所得の金額の合計額が10万円を超える者
控除額は以下の通りです。
年金等の控除額
(給与所得控除後の給与等の金額※+公的年金等に係る雑所得の金額※)-10万円
※10万円を超える場合は10万円
所得金額調整控除の年末調整での注意点
所得金額調整控除の年末調整での注意点は以下の通りです。
- 年末調整で控除を受ける為には「所得金額調整控除申告書」の提出が必要になります。
- 年末調整で控除出来るのは「所得金額調整控除(子ども等)」だけで、「所得金額調整控除(年金等)」は控除出来ません。(確定申告が必要)
- 所得金額調整控除は「基礎控除申告書」「配偶者控除等申告書」等の「合計所得金額の見積額」の計算でも使います。ここでは上記とは異なり「所得金額調整控除(子ども等)」だけでなく「所得金額調整控除(年金等)」も控除します。
- 2か所以上から給与を受ける場合の「所得金額調整控除(子ども等)」の年収850万円超の判定と控除額の計算は、年末調整計算では主たる給与だけで行いますが、「基礎控除申告書」「配偶者控除等申告書」等の「合計所得金額の見積額」の計算では従たる給与も含めて全ての給与で行います。
まとめると以下の通りです。
年末調整で使う箇所 | 所得金額調整控除(子ども等) | 所得金額調整控除(年金等) |
所得金額調整控除申告書 「所得金額調整控除」 の計算 (勤務先が計算) | ・控除する○ ・2か所以上給与の場合 主たる給与で計算 (850万円超の判定も) | ・控除不可× |
基礎控除申告書 配偶者控除等申告書等 「合計所得金額見積額」 の計算 (従業員が計算) | ・控除する○ ・2か所以上給与の場合 全ての給与で計算 (850万円超の判定も) | ・控除する○ |
所得金額調整控除は新しい概念なのでなかなか理解しづらいと思いますが、具体的に計算してみると理解できるようになります。
具体的な計算例は以下の記事をご覧ください。
年末調整、所得金額調整控除の具体的計算例、条文まとめ
前回、所得金額調整控除について趣旨、要件、控除額など基本的事項を解説しましたが、実際年末調整を行う場合、具体的にどのような計算になるんだろうか?根拠条文はどうなっているんだろうか?と疑問に思われる方も ...
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ひとり親控除の創設、寡婦控除の改正
ひとり親控除、寡婦(寡夫)控除の概要
性別や婚姻歴による控除額の不公平を是正する為に「寡婦(寡夫)控除」の統廃合が行われ「ひとり親控除」が創設されました。改正の大枠は以下の通りです。
- 合計所得金額500万円超の場合(下記表①)、控除を受けられないようになりました。
- 合計所得金額500万円以下で生計を一にする子を有する場合(下記表③~⑤)、性別や婚姻歴による差をなくし公平に控除を受けられるようになりました。名称も「ひとり親控除」に統一されました。
- 改正前の寡婦控除のうち合計所得金額500万円以下で特別の寡婦に該当しない部分(下記表②)が「寡婦控除」として継続することになりました。(性別や婚姻歴による不公平が継続)
まとめると以下の通りです。
改正前名称 (合計所得要件/扶養親族要件) | 改正前 控除名/額 | 改正後 控除名/額 | 変更点 |
①寡婦 (500万円超/生計一の子、扶養親族) | 寡婦控除 27万円 | 所得控除なし 0万円 | 廃止 |
②寡婦 (500万円以下/扶養親族、死別扶養なし) | 寡婦控除 27万円 | 寡婦控除 27万円 | 継続 |
③特別の寡婦 (500万円以下/生計一の子) | 寡婦控除 35万円 | ひとり親控除 35万円 | 同額 |
④寡夫 (500万円以下/生計一の子) | 寡夫控除 27万円 | ひとり親控除 35万円 | 増額 |
⑤未婚のひとり親 (500万円以下/生計一の子) | 所得控除なし 0万円 | ひとり親控除 35万円 | 新設 |
ひとり親控除
要件は以下の通りです。
ひとり親控除の要件
現に婚姻をしていない者又は配偶者の生死の明らかでない一定の者のうち以下の要件を満たすもの
- 生計を一にする合計所得金額48万円以下の子を有する
- 本人合計所得金額500万円以下
- 事実婚なし
ひとり親控除は寡婦控除と異なり(性別)は男女問いません。(婚姻歴)も離婚、死別、未婚を問いません。要件が単純に「婚姻をしていない者」になっています。
控除額は以下の通りです。
ひとり親控除の控除額
35万円
寡婦控除
離婚した場合と死別した場合で要件が異なります。それぞれの要件は以下の通りです。
寡婦控除の要件(離婚)
夫と離婚した後婚姻をしていない者のうち以下の要件を満たすもの(ひとり親に該当しないもの)
- 扶養親族を有する
- 本人合計所得金額500万円以下
- 事実婚なし
寡婦控除の要件(死別)
夫と死別した後婚姻をしていない者又は夫の生死の明らかでない一定の者のうち以下の要件を満たすもの(ひとり親に該当しないもの)
- 本人合計所得金額500万円以下
- 事実婚なし
寡婦控除はひとり親控除と異なり(性別)は女性限定で男性は除かれます。(婚姻歴)も離婚、死別限定で未婚は除かれます。要件が「夫と離婚」「夫と死別」になっています。
控除額は以下の通りです。
寡婦控除の控除額
27万円
まとめ
いかがだったでしょうか。今回はかなり大幅な改正となっています。改正項目を一通りマスター出来るよう網羅的に解説しました。それと国税庁FAQのうち重要と思われるものについても解説しておきました。SNSでシェアするなどしてご活用ください。