年末調整 所得税

年末調整、所得金額調整控除の具体的計算例、条文まとめ

2020年9月12日

疑問

前回、所得金額調整控除について趣旨、要件、控除額など基本的事項を解説しましたが、実際年末調整を行う場合、具体的にどのような計算になるんだろうか?根拠条文はどうなっているんだろうか?と疑問に思われる方も多いのではないでしょうか。

そこで今回はそんな疑問にお答えする為にフルパターンの具体的な計算例を作ってみました。具体的に計算してみることで理解が深まると思います。それとあわせて計算の裏付けとなる根拠条文などもまとめておきました。

年末調整での所得金額調整控除の具体的な計算例

前回※「所得金額調整控除の年末調整での注意点」のところで年末調整で所得金額調整控除を使う箇所は2箇所(年末調整計算、合計所得金額計算)あって、それぞれ所得金額調整控除の計算が異なる(2か所以上給与と年金がある場合)ということを解説しました。

今回はそのことを確認する為に2か所給与と年金所得のフルパターンの具体例(理解を目的とした例題なので給与と年金のバランスなどは気にしないで下さい)を見ていきます。

※前回の記事は以下をご覧ください。「所得金額調整控除の創設」のところで改正趣旨、適用要件、控除額、年末調整での注意点について解説しています。

CHECK
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【具体例】社長の家族構成(同一生計・同居)と所得状況は以下の通りです。

  • 社長65歳
    主たる給与、年収960万円
    従たる給与、年収120万円
    公的年金等、年収240万円
  • 社長の奥さん64歳
    1か所給与、年収120万円
    公的年金等、年収120万円
  • 社長のお母さん90歳
    特別障害者
    所得なし

まずは社長の年末調整計算での所得金額調整控除を見ていきましょう。

社長の年末調整計算

給与収入960万円(主たる給与)
給与所得控除195万円(年収850万円超∴上限195万円)
給与所得控除後の給与等の金額765万円(960万円-195万円)
所得金額調整控除(子ども等)11万円※1
所得金額調整控除(年金等)は年末調整計算では控除不可
給与所得控除後の給与等の金額(調整控除後)754万円(765万円-11万円)
配偶者特別控除額7万円※2
扶養控除額58万円(同居老親等)
障害者控除額75万円(同居特別障害者)
基礎控除額48万円※3

※1所得金額調整控除(子ども等)
(判定)年収960万円>850万円、特別障害者である扶養親族(母)を有する。∴所得金額調整控除(子ども等)あり
(控除額)(960万円-850万円)×10%=11万円

※2配偶者特別控除
社長の合計所得金額990万円⇒以下の「社長の合計所得金額計算」で計算
奥さんの合計所得金額115万円⇒以下の「奥さんの合計所得金額計算」で計算
∴7万円

※3基礎控除
社長の合計所得金額990万円⇒以下の「社長の合計所得金額計算」で計算
∴48万円

上記年末調整計算では年末調整が主たる給与だけを対象にしているので所得金額調整控除も主たる給与だけで計算します。

つぎは社長の配偶者特別控除や基礎控除で使われる社長の合計所得金額計算での所得金額調整控除を見ていきましょう。

社長の合計所得金額計算

給与収入1,080万円(主たる給与960万円+従たる給与120万円)
給与所得控除195万円(年収850万円超∴上限195万円)
給与所得の金額885万円(1,080万円-195万円)
所得金額調整控除(子ども等)15万円※1
所得金額調整控除(年金等)10万円※2
公的年金等収入240万円
公的年金等控除110万円※3
雑所得の金額130万円(240万円-110万円)
合計所得金額990万円(885万円-15万円-10万円+130万円)

※1所得金額調整控除(子ども等)
(判定)年収1,080万円>850万円、特別障害者である扶養親族(母)を有する。∴所得金額調整控除(子ども等)あり
(控除額)(1,000万円※給-850万円)×10%=15万円 ※給1,080万円>1,000万円∴1,000万円

※2所得金額調整控除(年金等)
(判定)給与所得の金額885万円と公的年金等に係る雑所得の金額130万円があり、その合計額(885万円+130万円)>10万円。∴所得金額調整控除(年金等)あり
(控除額)(10万円※給+10万円※年)-10万円=10万円 ※給885万円>10万円∴10万円 ※年130万円>10万円∴10万円

※3公的年金等控除
公的年金等に係る雑所得以外の所得に係る合計所得金額(上記給与所得の金額885万円-所得金額調整控除(子ども等)15万円)≦1,000万円、65歳以上
∴110万円

上記合計所得金額計算では合計所得が全ての所得を対象にしているので所得金額調整控除も従たる給与や年金を含め全ての所得で計算します。

上記の通り年末調整計算と合計所得金額計算では計算対象とする所得が異なる(年末調整は主たる給与だけで計算、合計所得金額は全ての所得で計算)のでそこで使われる所得金額調整控除の種類や控除額も異なってきます。

  • 社長の年末調整計算⇒主たる給与だけで計算
    所得金額調整控除(子ども等)11万円⇒主たる給与だけで計算(判定も)
    所得金額調整控除(年金等)控除不可⇒主たる給与だけなので年金含まない
  • 社長の合計所得金額計算⇒全ての所得で計算
    所得金額調整控除(子ども等)15万円⇒全ての給与で計算(判定も)
    所得金額調整控除(年金等)10万円⇒全ての所得なので年金含む

最後に社長の配偶者特別控除で使われる奥さんの合計所得金額計算での所得金額調整控除を見ていきましょう。社長の合計所得金額計算と同じく全ての所得で計算します。

奥さんの合計所得金額計算

給与収入120万円
給与所得控除55万円(年収162.5万円以下∴下限55万円)
給与所得の金額65万円(120万円-55万円)
所得金額調整控除(子ども等)0万円※1
所得金額調整控除(年金等)10万円※2
公的年金等収入120万円
公的年金等控除60万円※3
雑所得の金額60万円(120万円-60万円)
合計所得金額115万円(65万円-0万円-10万円+60万円)

※1所得金額調整控除(子ども等)
(判定)年収120万円≦850万円、特別障害者である扶養親族(母)を有する。∴所得金額調整控除(子ども等)なし
(控除額)0万円
注意!仮に奥さんの年収が850万円超の場合、夫婦両方で所得金額調整控除(子ども等)を受けられます。夫婦どちらか一方でしか控除を受けられない扶養控除とは取扱いが異なります。(以下の措置法通達41の3の3-1で解説します)

※2所得金額調整控除(年金等)
(判定)給与所得の金額65万円と公的年金等に係る雑所得の金額60万円があり、その合計額(65万円+60万円)>10万円。∴所得金額調整控除(年金等)あり
(控除額)(10万円※給+10万円※年)-10万円=10万円 ※給65万円>10万円∴10万円 ※年60万円>10万円∴10万円

※3公的年金等控除
公的年金等に係る雑所得以外の所得に係る合計所得金額(上記給与所得の金額65万円-所得金額調整控除(子ども等)0万円)≦1,000万円、65歳未満
∴60万円

所得金額調整控除に関連する根拠条文など

最後に所得金額調整控除に関連する根拠条文などを見ていきましょう。

下記が所得計算の流れと所得金額調整控除の控除位置になります。

給与所得の金額
所得金額調整控除(租税特別措置法第四十一条の三の三、第四十一条の三の四)
総所得金額(所得税法第二十二条)
合計所得金額(所得税法第二条)
所得控除

所得金額調整控除は給与所得の金額の計算上控除する「給与所得控除」や基礎控除などの「所得控除」の一種ではなく新しく出来た「総所得金額の計算上給与所得の金額から控除する控除」になります。総所得金額の計算上長期譲渡所得と一時所得を1/2するのと同じように総所得金額を計算する段階で控除します。当然その後の合計所得金額は所得金額調整控除後の金額(よって合計所得金額を計算する場合には所得金額調整控除を控除する)になります。

そのことを確認できるように所得金額調整控除の条文だけでなく総所得金額と合計所得金額の条文についても載せておきました。

租税特別措置法第四十一条の三の三 所得金額調整控除

第一項は「所得金額調整控除(子ども等)」、第二項は「所得金額調整控除(年金等)」について規定しています。

租税特別措置法

(所得金額調整控除)
第四十一条の三の三 その年中の給与等の収入金額が八百五十万円を超える居住者で、特別障害者に該当するもの又は年齢二十三歳未満の扶養親族を有するもの若しくは特別障害者である同一生計配偶者若しくは扶養親族を有するものに係る総所得金額を計算する場合には、その年中の給与等の収入金額(当該給与等の収入金額が千万円を超える場合には、千万円)から八百五十万円を控除した金額の百分の十に相当する金額を、その年分の給与所得の金額から控除する。
2 その年分の給与所得控除後の給与等の金額及び公的年金等に係る雑所得の金額がある居住者で、当該給与所得控除後の給与等の金額及び当該公的年金等に係る雑所得の金額の合計額が十万円を超えるものに係る総所得金額を計算する場合には、当該給与所得控除後の給与等の金額(当該給与所得控除後の給与等の金額が十万円を超える場合には、十万円)及び当該公的年金等に係る雑所得の金額(当該公的年金等に係る雑所得の金額が十万円を超える場合には、十万円)の合計額から十万円を控除した残額を、その年分の給与所得の金額(前項の規定の適用がある場合には、同項の規定による控除をした残額)から控除する。
〔中略〕
5 第一項又は第二項の規定の適用がある場合における所得税法第二十二条の規定の適用については、同条第二項第一号中「給与所得の金額」とあるのは、「給与所得の金額から租税特別措置法第四十一条の三の三第一項又は第二項(所得金額調整控除)の規定による控除をした残額」とする。

引用:租税特別措置法第四十一条の三の三(電子政府の総合窓口(e-Gov))

租税特別措置法第四十一条の三の四 年末調整に係る所得金額調整控除

年末調整で給与所得者が勤務先に「所得金額調整控除申告書」を提出したときは前条第一項の「所得金額調整控除(子ども等)」を受けられる旨規定されています。

租税特別措置法

(年末調整に係る所得金額調整控除)
第四十一条の三の四 居住者が、その年に所得税法第百九十条の規定の適用を受ける同条に規定する給与等(以下この条において「給与等」という。)の支払を受けるべき場合において、この項の規定の適用を受けようとする旨、その居住者が前条第一項の特別障害者に該当する旨又は同項の扶養親族若しくは同一生計配偶者の氏名及び個人番号(個人番号を有しない者にあつては、氏名)その他の財務省令で定める事項を記載した申告書をその給与等の支払者を経由してその給与等に係る所得税の同法第十七条の規定による納税地(同法第十八条第二項の規定による指定があつた場合には、その指定をされた納税地)の所轄税務署長に提出したときは、その年のその給与等に対する同法第百九十条の規定の適用については、同条第二号に規定する給与所得控除後の給与等の金額は、当該金額に相当する金額から前条第一項の規定による控除をされる金額に相当する金額を控除した金額に相当する金額とする。
2 前項に規定する申告書は、同項の給与等の支払者からその年最後に給与等の支払を受ける日の前日までに、提出しなければならない。
3 第一項の場合において、同項に規定する申告書をその提出の際に経由すべき給与等の支払者が受け取つたときは、当該申告書は、その受け取つた日に同項に規定する税務署長に提出されたものとみなす。

引用:租税特別措置法第四十一条の三の四(電子政府の総合窓口(e-Gov))

所得税法第二十二条 総所得金額

所得税法第二十二条で総所得金額について規定していますが上記租税特別措置法第四十一条の三の三第五項で所得税法第二十二条第二項第一号中の「給与所得の金額」は所得金額調整控除をした残額とするとあるのでそれを合計した総所得金額も所得金額調整控除後の金額になります。

所得税法

(課税標準)
第二十二条 居住者に対して課する所得税の課税標準は、総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額とする。
2 総所得金額は、次節(各種所得の金額の計算)の規定により計算した次に掲げる金額の合計額(第七十条第一項若しくは第二項(純損失の繰越控除)又は第七十一条第一項(雑損失の繰越控除)の規定の適用がある場合には、その適用後の金額)とする。
一 利子所得の金額、配当所得の金額、不動産所得の金額、事業所得の金額、給与所得の金額、譲渡所得の金額(第三十三条第三項第一号(譲渡所得の金額の計算)に掲げる所得に係る部分の金額に限る。)及び雑所得の金額(これらの金額につき第六十九条(損益通算)の規定の適用がある場合には、その適用後の金額)の合計額
二 譲渡所得の金額(第三十三条第三項第二号に掲げる所得に係る部分の金額に限る。)及び一時所得の金額(これらの金額につき第六十九条の規定の適用がある場合には、その適用後の金額)の合計額の二分の一に相当する金額

引用:所得税法第二十二条(電子政府の総合窓口(e-Gov))

所得税法第二条 合計所得金額

所得税法第二条で配偶者特別控除や基礎控除の控除区分などに使われる合計所得金額について規定していますが上記総所得金額が所得金額調整控除後の金額なのでそれを合計した合計所得金額も所得金額調整控除後の金額になります。

よって合計所得金額を計算する場合には所得金額調整控除を控除するということになります。

所得税法

(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
〔前略〕
三十 寡婦 次に掲げる者でひとり親に該当しないものをいう。
〔中略〕
(2) 第七十条(純損失の繰越控除)及び第七十一条(雑損失の繰越控除)の規定を適用しないで計算した場合における第二十二条(課税標準)に規定する総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額(以下この条において「合計所得金額」という。)が五百万円以下であること。
〔後略〕

引用:所得税法第二条(電子政府の総合窓口(e-Gov))

措置法通達41の3の3-1 一の居住者の扶養親族等が他の居住者の扶養親族に該当する場合

夫婦共働きで扶養親族を有する場合、扶養控除では夫婦どちらか一方でしか控除を受けられませんが、所得金額調整控除では夫婦両方で控除を受けられます。

法令解釈通達

(一の居住者の扶養親族等が他の居住者の扶養親族に該当する場合)

41の3の3-1 年齢23歳未満の扶養親族又は特別障害者である同一生計配偶者若しくは扶養親族が、居住者の特別障害者である同一生計配偶者に該当し、かつ、他の居住者の特別障害者である扶養親族にも該当する場合又は2以上の居住者の年齢23歳未満若しくは特別障害者である扶養親族に該当する場合において、措置法第41条の3の3第1項の規定の適用を受けるに当たっては、これらの居住者はいずれも年齢23歳未満の扶養親族又は特別障害者である同一生計配偶者若しくは扶養親族を有することとなることに留意する。(令元課個2-24、課法11-4、課審5-13追加)

引用:第41条の3の3((所得金額調整控除))関係(国税庁ホームページ)

所得金額調整控除に関するFAQ 17 年末調整における所得金額調整控除の額の注意事項

この記事の具体的な計算例と同じケースです。逆にこのケースを具体的な計算例にしています。

17 年末調整における所得金額調整控除の額の注意事項

〔問〕 「所得金額調整控除申告書」には所得金額調整控除の額を記載する必要がないようですが、年末調整における所得金額調整控除の額の計算において、注意する事項はありますか。
〔答〕
従業員等が①2か所以上から給与等の支払を受けている場合や②公的年金等の支払を受けている場合については、年末調整の際に給与等の支払者が源泉徴収簿において算出する所得金額調整控除の額と、従業員等が「給与所得者の基礎控除申告書」等で合計所得金額の見積額の計算において給与所得の所得金額を求める際の所得金額調整控除の額とが、異なる場合がありますので、注意する必要があります。
具体的には、年末調整の際に給与等の支払者が源泉徴収簿において算出する所得金額調整控除の額については、従たる給与等を含めずに年末調整の対象となる主たる給与等により計算することとなります。他方、従業員等が「給与所得者の基礎控除申告書」等で合計所得金額の見積額の計算において給与所得の所得金額を求める際の所得金額調整控除の額については、上記①の場合、従たる給与等を含めた本年中の全ての給与等により計算することとなり、上記②の場合、所得金額調整控除(子ども等)と所得金額調整控除(年金等)の両方を考慮して計算することとなります。

引用:所得金額調整控除に関するFAQ(国税庁ホームページ)

まとめ

いかがだったでしょうか。所得金額調整控除という新しい概念、慣れるまでしばらく時間がかかりそうです。改正趣旨を理解するとおさえやすいと思いますので前回の記事も参考になさってください。

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