年末調整や確定申告で出てくる住宅ローン控除の「特定取得」と「特別特定取得」。どこがどう違うのか、いまいち全体像がつかめないという方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は特定取得と特別特定取得について、それぞれの位置づけが分かるように意義に加え立法趣旨や取扱いについて詳しく解説します。更に特別特定取得に該当した場合の控除期間13年の特例措置の適用要件や計算方法についても解説します。
特定取得とは、特別特定取得とは
年末調整や確定申告の手引では以下のように解説されています。要約すると。
(特別)特定取得の意義
- 特定取得とは・・・消費税8%、10%の住宅の取得等
- 特別特定取得とは・・・消費税10%の住宅の取得等
ただ、これでは似たような名称で両者の関係もいまいちはっきりしません。そこで以下で両者ができた経緯(立法趣旨)と取扱いについて解説します。
特定取得と特別特定取得は消費税増税の負担軽減措置
特定取得と特別特定取得は消費税の増税に伴いできました。(8%増税時、10%増税時)
消費税率 | ~平成26年3月 5% | 平成26年4月~ 8% | 令和1年10月~ 10% | |
住宅ローン控除区分 | 特定取得以外 | 特定取得 | 特定取得 特別特定取得 | |
年間最大控除額※ | 増税前 | 2倍に | 2%増税分追加 | |
1年目 2年目 3年目 4年目 5年目 6年目 7年目 8年目 9年目 10年目 11年目 12年目 13年目 | 20万円 20万円 20万円 20万円 20万円 20万円 20万円 20万円 20万円 20万円 - - - | 40万円 40万円 40万円 40万円 40万円 40万円 40万円 40万円 40万円 40万円 - - - | 40万円 40万円 40万円 40万円 40万円 40万円 40万円 40万円 40万円 40万円 26.66万円 26.66万円 26.66万円 | |
控除期間 | 10年 | 10年 | 13年 | |
合計最大控除額 | 200万円 | 400万円 | 479.98万円 | |
※新築・未使用の長期優良住宅、低炭素住宅の場合、年間最大控除額20万円は30万円に、40万円は50万円に、26.66万円は33.33万円になります。 |
国は消費税の増税(5%⇒8%⇒10%)に伴う住宅取得等の負担増を軽減する為(景気対策)に住宅ローン控除を拡充する措置(合計最大控除額200万円⇒400万円⇒479.98万円)を講じました。(長期優良住宅等は300万円⇒500万円⇒599.99万円)
- 消費税8%増税時に「消費税8%以上の住宅取得等」を「特定取得」として年間最大控除額を20万円から40万円に2倍に拡大しました。(長期優良住宅等は30万円から50万円)
- 更に消費税10%増税時に「消費税10%の住宅取得等」を「特別特定取得」として入居期限付きで控除期間を3年延長して2%増税分26.66万円を追加しました。(長期優良住宅等は2%増税分33.33万円)
特定取得と特別特定取得は消費税増税に伴う負担軽減措置としてできました。両者の取扱いをまとめると以下の通りです。
(特別)特定取得の取扱
- 特定取得(消費税8%、10%取得)・・・年間最大控除額拡大
- 特別特定取得(消費税10%取得)・・・入居期限付きで特定取得に期間を3年延長して2%増税分追加
特別特定取得は入居期限付きで控除期間13年になっています。また11年目~13年目の計算方法が通常の住宅ローン控除と異なります。以下で適用要件と計算方法について詳しく見ていきましょう。
特別特定取得の控除期間13年特例、適用要件と計算方法
適用要件
特別特定取得が控除期間13年の特例措置を受ける為には以下の全てを満たす必要があります。
適用要件
- 特別特定取得(消費税10%取得)に該当
- 入居期限(令和1年10月1日~令和2年12月31日)までに入居
上記を全て満たすと控除期間13年になります。消費税10%でも入居期限を満たさないと控除期間10年です。
ただし、コロナの影響で入居が遅れた場合、契約期限付きで入居期限が令和3年12月31日まで延長されます。また、令和3年度税制改正でこれも契約期限付きですが入居期限が令和3年1月1日~令和4年12月31日まで延長されます。詳しくは以下の記事をご覧ください。
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消費税10%だと全て控除期間13年になるわけではありません。プラスアルファの要件を満たす必要があります。
計算方法
1年目~10年目は特定取得部分で通常通り計算します。
1~10年目
- 住宅ローン残高又は住宅の取得対価(上限4,000万円※1)いずれか少ない方×1%(最大40万円※2)
※1新築・未使用の長期優良住宅、低炭素住宅の場合5,000万円
※2新築・未使用の長期優良住宅、低炭素住宅の場合50万円
11年目~13年目は特別特定取得部分で上記計算に2%増税分の限度計算が加わります。
11~13年目
以下の1.2.いずれか少ない方(最大26.66万円※3)・・・2.の2%増税分が限度という意味
- 住宅ローン残高又は住宅の取得対価(上限4,000万円※1)いずれか少ない方×1%(最大40万円※2)
- 建物の取得価格(上限4,000万円※1)×2%÷3(最大26.66万円※3)・・・2%増税分を3年で控除するという意味
※1新築・未使用の長期優良住宅、低炭素住宅の場合5,000万円
※2新築・未使用の長期優良住宅、低炭素住宅の場合50万円
※3新築・未使用の長期優良住宅、低炭素住宅の場合33.33万円
特定取得以外になる中古住宅の個人間売買に注意
消費税は事業者(建設業者、不動産業者)の売上にはかかりますが、事業者でない個人の売上にはかかりません。
従って中古住宅を事業者でない個人から買う場合は消費税がかからないので特定取得(消費税8%以上取得)や特別特定取得(消費税10%取得)には該当せず、特定取得以外になります。消費税5%のときと同様、年間最大控除額20万円、控除期間10年になります。
今現在消費税が10%だからといって必ず消費税がかかっているとは限りません。売買契約書などで売主が事業者か個人か確認するようにしましょう。
特定取得と特別特定取得の判定の流れ
今までの注意点などを踏まえ特定取得と特別特定取得の判定の流れをまとめると以下の通りです。
- まずは契約書などで売主が個人か事業者か確認します。
- 次に消費税率を確認します。
- 消費税率10%で特別特定取得に該当するときは更に入居期限を満たすか確認します。
売主 | 消費 税率 | 住宅ローン控除区分 | 最大控除額 年間① | 控除期間 ② | 最大控除額 合計①×② | |
個人 | 0% | 特定取得以外 | 20万円 | 10年 | 200万円 | |
事業者 | 5% | 特定取得以外 | 20万円 | 10年 | 200万円 | |
8% | 特定取得 | 40万円 | 10年 | 400万円 | ||
10% | 特定取得 特別特定取得 | 入居期限× | 40万円 | 10年 | 400万円 | |
入居期限○ | 40万円 | 10年 | 479.98 万円 | |||
26.66万円 | 3年 |
※新築・未使用の長期優良住宅、低炭素住宅の場合、年間最大控除額20万円は30万円に、40万円は50万円に、26.66万円は33.33万円になります。
特定取得、特別特定取得は住民税の控除限度額にも影響
特定取得、特別特定取得は住宅ローン控除の最大控除額(上述)のほか住民税の控除限度額にも影響します。住民税の控除限度額は以下の通りです。
- 特定取得以外の場合
所得税の課税総所得金額等×5%(97,500円限度) - 特定取得、特別特定取得の場合
所得税の課税総所得金額等×7%(136,500円限度)
住民税の住宅ローン控除について詳しくは以下の記事をご覧ください。
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まとめ
いかがだったでしょうか。特定に特別を追加して特別特定。令和3年度税制改正では特別特例なるものが。どんどん複雑になる住宅ローン控除。参考にしてください。
なお、令和4年度税制改正で、借入限度額(大、小)を区分する基準が「消費税率(特定取得、特定取得以外)」から「住宅の種類(省エネ性能等)」に変わりました。また、控除期間(13年、10年)を区分する基準も「消費税率(10%で特例該当13年)」から「住宅の種類(新築、買取再販13年)」に変わりました。それ以外の項目も含め大幅に改正されています。住宅ローン控除の令和4年度税制改正について詳しくは以下の記事をご覧ください。
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