会計

個人事業創業者向け帳簿を付ける為の現預金の管理のしかた

2021年4月22日

お金とお財布、管理のしかた

家計と事業でお財布や通帳を分けて、日々、現預金の帳簿残高と実際残高を確認する現預金の管理は経理の基本ですが、個人事業を始めて、いざ帳簿を付けようとすると、現預金に関して家計と事業を具体的にどのように分けたらよいのかなど、現預金の管理のしかたで悩む方も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、そのような創業したての方に向けて、現預金の残高確認が必要な理由や、現預金の具体的な家計と事業の区分のしかたなど、現預金の管理のしかたについて解説します。

現預金の残高確認が必要な理由

現預金の残高確認は経理の基本

日々の現預金の帳簿残高(現金出納帳、銀行帳)と実際残高(お財布、通帳残高)との確認は経理の基本ですが、残高確認は以下のために行います。

残高確認の目的

  • 帳簿の記入誤りを発見できる(=売上、経費を正しく計上できる)
  • 現金紛失を発見できる(=盗難、横領、釣銭違いを防止できる)

順番に見ていきましょう。

帳簿の記入が正しいと残高が一致する

売上と経費だけの簡単な現金出納帳の例で解説します。銀行帳もしくみは同じです。

実際(お財布)現金出納帳
売上入金+50,000円+50,000円⇒売上帳
経費出金ー30,000円ー30,000円⇒経費帳
現金残高+20,000円+20,000円残高一致

売上、経費は現金出納帳に記入し、同時に売上帳、経費帳に記入します。

売上、経費が現金出納帳に正しく記入されていれば、現金出納帳の残高は実際残高に一致するので、現金出納帳の残高が実際残高に一致しているか確認するれば売上、経費が正しく記入されているかどうかを確認することができます。

残高確認のしくみ

  • 残高が合ってる=内訳も合ってる
  • 残高が合ってない=内訳が間違ってる

帳簿の記入誤りを発見できる(=売上、経費を正しく計上できる)

実際(お財布)現金出納帳
売上入金+50,000円+50,000円⇒売上帳
経費出金ー30,000円記入もれ経費帳誤り
現金残高+20,000円+50,000円残高不一致

現金出納帳の残高と実際残高が一致していない場合は、現金出納帳の内訳である売上、経費に記入誤りがあるということになりますので、現金出納帳を見直すことによって記入誤りを発見することができます。

売上、経費を売上帳、経費帳にしか記入せず、現金出納帳による残高確認を行っていないと、売上、経費に記入誤りがあっても気づけませんが、現金出納帳による残高確認を行っていると、記入誤りがあると残高不一致として表れるので必ず気づくことができます

現金出納帳による残高確認を行うことによって売上、経費に対する2重チェック機能が働き(売上を売上領収書控えと現金残高の両面からチェック。経費を領収書と現金残高の両面からチェック。)、売上、経費を正しく計上することができます。(会計ソフトや多桁式現金出納帳など、売上帳、経費帳への転記ミスが生じないことが前提)

参考

  • 白色申告者の帳簿
    売上帳、経費帳による集計のみで、現金出納帳、銀行帳による現預金の残高確認を行っていない(2重チェックがない)ので、現預金の残高の裏付けがない正確性の劣る帳簿になります。そのため、青色申告者のような特別控除の特典はありません。
  • 青色申告者の複式簿記による帳簿
    貸借対照表を作成して、現金出納帳、銀行帳による現預金の残高確認のみならず、全ての資産、負債の残高確認を行っている(2重チェックがある)ので、資産、負債の残高の裏付けがある正確な帳簿を作成することができます。そのため、青色申告特別控除55万円(電子申告等は65万円)の特典が与えられています。
  • 青色申告者の簡易簿記による帳簿
    貸借対照表を作成せず、残高確認も現金出納帳による現金残高の確認など一部にとどまっている(2重チェックが一部)ので、複式簿記に比べて残高の裏付けに乏しく正確性の面で劣ります。そのため、青色申告特別控除も10万円と低くなっています。

現金紛失を発見できる(=盗難、横領、釣銭違いを防止できる)

実際(お財布)現金出納帳
売上入金+50,000円+50,000円⇒売上帳
経費出金ー30,000円ー30,000円⇒経費帳
現金紛失ー10,000円
現金残高+10,000円+20,000円残高不一致

現金出納帳の残高と実際残高が一致せず、現金出納帳を見直しても記入誤りがない場合は、現金が紛失しているということになりますので、盗難、横領、釣銭違いなどに気づくことができます。

売上、経費を売上帳、経費帳にしか記入せず、現金出納帳による残高確認を行っていないと、盗難、横領など現金紛失があっても金額が大きくないと気づけませんが、現金出納帳による残高確認を行っていると、現金紛失があると残高不一致として表れるので必ず気づくことができます

現金出納帳による残高確認を行うことによって盗難、横領を防止したり、釣銭違いの対策をとったりすることができます

現金の管理のしかた

以上、現預金の残高確認の重要性(=売上、経費を正しく計上、盗難横領などを防止)を確認しましたが、個人は家計と事業が混在しているのでそれらを区分して効率よく残高確認を行う必要があります。また現金商売の場合は、レジ現金の管理のしかたもポイントになります。現金の管理は以下のように行います。

ポイント

  • 事業用のお財布をつくる
  • 事業に関係のあるものは全て事業用のお財布から支払う
  • 現金商売の場合、売上のお財布と経費のお財布を分ける
  • レジ現金は釣銭を定額にし、売上金を毎日預け入れる

順番に見ていきましょう。

事業用のお財布をつくる

まずは事業用のお財布(金庫)をつくって家計と事業を区分します。そして事業の売上、経費はそこで管理するようにします。

家計と事業のお財布が一緒になっていると家計の分も現金出納帳につけないとお財布との残高確認(=売上、経費を正しく計上、盗難横領などを防止)が行えませんので効率が悪くなります。ですのでまず最初に家計と事業を分けて残高確認の対象を事業に絞ります。

事業に関係のあるものは全て事業用のお財布から支払う

個人の場合、自動車のガソリン代のようにプライベートでも使っているし、事業でも使っている、いわゆる家事関連費(家事と事業の両方に関係する経費)がありますが、事業に関係のあるものは全て事業用のお財布から支払うようにします。(いったん現金出納帳に計上したうえで家事費(プライベート)部分を経費から除外します)

家計のお財布から支払うと家計のお財布は残高管理を行っていないのでもれていても気づけませんが、事業用のお財布は残高管理を行っているのでもれていれば残高不一致で必ず気づくのでもれる心配がありません。

現金商売の場合、売上のお財布と経費のお財布を分ける

飲食店や小売店など現金商売の場合は、売上のお財布(レジ現金)と経費のお財布(小口現金)を分けて、レジは売上の入金だけにして、レジから経費を支払わないようにします。その方が現金の管理がしやすくなります。

売上と経費のお財布を分けていれば、レジの現金残高とレシート合計との不一致は釣銭違いで、経費のお財布の現金残高と現金出納帳の残高との不一致は経費の記入もれではないかと残高不一致の原因を特定しやすくなります。売上と経費のお財布が一緒だと残高不一致の原因が複合するので原因を特定しにくくなります。

レジ現金は釣銭を定額にし、売上金を毎日預け入れる

レジの釣銭を毎日5万円など定額にします。そうすれば営業が終わってレジの残高確認をするとき、レジの中には「釣銭5万円+売上金」が入っているはずなので、「釣銭5万円+レシート合計」と一致していれば釣銭違いがなかったことを確認できます。店を閉めるときにレジに釣銭5万円を残して売上金だけを預け入れれば通帳に売上が記帳されて売上金の盗難防止になります。翌日のレジはまた釣銭5万円からのスタートになります。

レジ現金の管理のしかた

  • 開店、レジ(釣銭5万円)
  • 閉店、レジ締め残高確認(釣銭5万円+売上金)
  • 売上金預け入れ、レジ(釣銭5万円)

預金の管理のしかた

預金も現金と同様、もれなく、かつ、最小限の銀行帳記入で効率よく残高確認を行いたいところです。預金の管理は以下のように行います。

ポイント

  • 事業用の通帳をつくる
  • 事業に関係のあるものは全て事業用の通帳から支払う
  • 必要経費にならないものは事業用の通帳から支払わない
  • 生活費の通帳引出を毎月定額にする

順番に見ていきましょう。

事業用の通帳をつくる

現金と同様、残高確認の対象を事業に絞るために事業用の通帳をつくって家計と事業を区分します。

クレジットカード払いは家計用のカードと事業用のカードを使い分けするようにすれば家計と事業を区分することができます。

事業に関係のあるものは全て事業用の通帳から支払う

通帳から支払うもの(引落、振込)の中にも家計と事業の両方に関係する家事関連費がありますが、現金と同様、計上もれを防止するために事業に関係のあるものは全て事業用の通帳から支払うようにします。(いったん銀行帳に計上したうえで家事費(プライベート)部分を経費から除外します)

家事関連費には以下のようなものがあります。(事業用の通帳から支払うようにします)

家計と事業の両方に使う家事関連費
借家・家賃
持ち家・借入金利息(住宅ローン)
・固定資産税
・火災保険料
・修理代(振込)
水道光熱費・電気代
・ガス代※
・水道代※
通信費・電話代
・インターネット代
自動車・駐車場代
・割賦利息(割賦代金)
・自動車税
・自動車保険料
・車検代、修理代(カード引落)
・ガソリン代(カード引落)

※自宅兼店舗の飲食店や美容室のように事業でも使ってる場合は事業用の通帳から支払うようにしますが、自宅兼事務所で自分の食事や風呂にしか使っていないような場合は家事費で経費にならないので事業用の通帳からは支払わないようにします。

家事関連費は上記のように項目が多いので、家事関連費が多い場合は、引き落とし口座を家事用の通帳から事業用の通帳に変更するより、家事用の通帳を事業用にして家計を別の通帳に変更する方が簡単です。

必要経費にならないものは事業用の通帳から支払わない

必要経費にならないものは事業用の通帳から支払わないようにします。その方が、銀行帳の記入を最小限に抑えることができます。また、誤って必要経費にしてしまうことを防げます。

ただし、必要経費にならなくても社会保険料など確定申告のときに使うもの(所得控除)は事業用の通帳で管理したいという場合や、税金は事業用の通帳にすべて集めて納税の資金繰り管理を一か所でしたいという場合などもありますので、どれを事業用の通帳に入れるかは各自の判断になります。

必要経費にならないものには以下のようなものがあります。(事業用の通帳から支払わないようにします)

必要経費にならないもの必要経費になるもの(全部又は一部)
・(所得税)※
・住民税
・固定資産税(全部家事用)
・自動車税(全部家事用)
・消費税(税抜経理の場合は未払消費税)
・事業税
・固定資産税(全部又は一部事業用)
・自動車税(全部又は一部事業用)
・生命保険料(生命保険料控除)
・損害保険料(地震保険料控除)
・自動車保険料(全部家事用)
・損害保険料(全部又は一部事業用)
・自動車保険料(全部又は一部事業用)
・国民年金保険料(社会保険料控除)
・国民健康保険料(社会保険料控除)

※所得税は必要経費になりませんが、消費税とともに振替納税依頼書を出しますので、消費税を事業用の通帳から支払うために、所得税も事業用の通帳から支払います。

生活費の通帳引出を毎月定額にする

個人の場合、事業用の通帳といっても自分のものなので生活費としていつでも自由に引き出すことができますが、生活費を毎月一回定額で引き出す方が銀行帳の記入を最小限に抑えることができます。

まとめ

いかがだったでしょうか。帳簿をつける為の現預金の管理のしかたについて、経費の計上もれなど記入誤りを防いで、いかに帳簿の記入を最小限に抑えるかという視点でまとめてみました。事業に関係のあるものを事業用に集めて、関係のないものを除外すればいいわけですが、引き落とし口座の変更が難しい場合や、必要経費にならなくても事業用の通帳で資金繰りを一元管理したいという場合もあります。状況に応じてご活用ください。

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