会計

勘定合って銭足らず。運転資金にご注意を!

2020年3月19日

貯金箱の小銭

利益は出ているのに何故かお金がない。みなさん、そんな経験はありませんか?収支分岐点売上高もクリアしてるのに何故に?

今回はそんな勘定合って(利益はあるのに)銭足らず(お金がない)の原因、運転資金について解説します。

勘定合って銭足らずの原因、運転資金

まずは、利益とお金が一致しない原因を見てみましょう

商品を20個200円で仕入れました。10個120円で売れて10個残りました。仕入は売れた分が費用になり、残った分は売れるまで資産になります。

売れた10個分

(売上原価)/(現金)100→利益△100、お金△100→利益とお金は一致します

(現金)/(売上高)120→お金+120、利益+120→利益とお金は一致します

残った10個分

(棚卸資産)/(現金)100→資産+100、お金△100→利益とお金が一致しません(在庫増加によるお金減少)

売れたら(キャッシュフロー計算書の仕訳)

(売上原価)/(現金)100→利益△100、お金△100→利益とお金は一致します

(現金)/(棚卸資産)100→お金+100、資産△100利益とお金が一致しません(在庫減少によるお金増加)

上記の仕入200円が翌月払いの掛取引だとした場合、いったん仕入200円現金で払って200円借りたのと同じ。

(現金)/(買掛金)200→お金+200、負債+200利益とお金が一致しません(借入によるお金増加)

翌月

(買掛金)/(現金)200→負債△200、お金△200→利益とお金が一致しません(借入返済によるお金減少)

上記の売上120円が翌月入金の掛取引だとした場合、いったん売上120円現金でもらって120円貸したのと同じ。

(売掛金)/(現金)120→資産+120、お金△120→利益とお金が一致しません(貸付によるお金減少)

翌月

(現金)/(売掛金)120→お金+120、資産△120利益とお金が一致しません(貸付回収によるお金増加)

このように、在庫を持ったり、掛取引をすると、利益以外の資産、負債によってお金が動くので利益とお金が一致しなくなります

とかく利益イコールお金と思いがちですが、お金に影響するのは何も売上や費用といった利益ばかりではありません。在庫、売掛金、買掛金といった資産、負債もお金に影響します。ですので勘定合って(利益はあるのに)銭足らず(お金がない)という現象が起こります。また逆に、勘定以上に(利益以上に)銭残る(お金が残る)という現象も起こります。

運転資金とは

企業が商品を仕入れて売ってと事業を運転していくためには販売用に在庫を持つための資金が必要になります。また掛で販売するには入金になるまで販売代金を立替える(貸付ける)資金が必要になります。逆に掛で仕入れると仕入代金を立替えてもらう(借入れる)のでその分必要な資金は少なくなります。このように事業を運転していくうえで必要になる在庫、売掛金、買掛金に関する資金のことを運転資金と言います。算式は次のとおりです。

運転資金の算式

売掛金+在庫-買掛金

運転資金のキャッシュフローへの影響のしかた

運転資金は売上や費用といった利益以外のところでお金に影響しますが、どのようなかたちで影響するのか、お金の流れ=キャッシュフローを見てみましょう。

キャッシュフローの算式

利益(お金になる大きさ)-±運転資金(お金になるスピード)=現金(お金)

利益(償却前利益)が、どれだけお金になるか「お金になる大きさ」を決定し、運転資金が、お金になるのが早いか遅いか「お金になるスピード」を決定します。お金は基本的にこの2つの要素によって決定されます。このお金から借入金を返済します。

利益があってもお金になるスピードが遅いと手元にお金がないということになってしまいますので運転資金も重要になります。在庫日数や支払から入金までの日数が長くなるとお金になるスピードが遅くなります。

運転資金には2タイプあります

運転資金は「お金になるスピード」が早いか遅いかによって以下のタイプに分かれます。まずは自社がどのタイプになるか貸借対照表で確認してみましょう。

  • 回収先行型:売掛金0+在庫50-買掛金100=運転資金△50資金余剰50
  • 支払先行型:売掛金200+在庫100-買掛金50=運転資金250資金不足250

運転資金の算式結果がマイナスになる場合、回収先行型になります。飲食店や小売業のような現金商売の場合、売上は毎日現金で入ってきて、仕入は掛で翌月払い。支払より入金が先行するので利益以上にお金が残ります。勘定合って銭足らずの逆の勘定以上に銭残るです。このような業種は資金繰りに問題ありません。

逆に運転資金の算式結果がプラスになる場合、支払先行型(サイト負け型)になります。建設業や製造業のように在庫負担があり支払から入金まで長期間要する場合、入金より支払が先行するので利益に比べてお金が不足します。勘定合って銭足らずです。このような業種は運転資金の調達が必須になります。資金繰りに注意を要するので次に具体例を見ていきましょう。

支払先行型、運転資金=資金不足の具体例

売上が入金になるまで資金が不足します

材料を仕入れ製品製造、翌月売上。その為当月の仕入は翌月に売上原価売上は3か月後入金仕入は翌月払固定費は当月払。勘定合って(利益はあるのに)銭足らず(お金がない)になっていることと、その差額が運転資金であることを確認してみて下さい。

損益計算書1月2月3月4月5月6月累計
売上02002002002002001,000
期首棚卸01501501501501500
仕入150150150150150150900
期末棚卸150150150150150150150
売上原価0150150150150150750
固定費404040404040240
利益△40101010101010
資金繰り表1月2月3月4月5月6月累計
売上収入/3か月0000200200400
仕入支出/翌月0150150150150150750
固定費支出/当月404040404040240
現金△40△190△190△1901010△590
貸借対照表1月2月3月4月5月6月累計
売掛金0200400600600600600
在庫150150150150150150150
買掛金150150150150150150150
運転資金0200400600600600600
増加運転資金020020020000600

2月3月4月とまさに勘定合って銭足らずです。資金繰り表の色が濃い部分を見れば分かりますが4月まで支払いが先行し売上の入金が追いついていません。5月にようやく追いついて利益と現金が一致し資金繰りが安定します。それまでは資金不足になるので利益と現金との差額=運転資金600の融資が必要になります

キャッシュフローの算式

利益-運転資金(資金不足)=現金(利益より少ない)

利益=現金(利益より少ない)+運転資金(資金不足)

利益と現金との差額が運転資金なので、運転資金の融資を受ければ勘定(利益)と銭(お金)が一致することになります。

参考

運転資金とは売上の入金がない4月までの必要資金(売掛金+在庫-買掛金)のことで、月々かかる仕入150、固定費40のことではありません。

売上が増加するときに資金が不足します

上記具体例の続きです。前回は売上仕入在庫が一定でしたが今回は事業規模が拡大する場合を見てみましょう。売上200→220→242→266仕入150→165→182→2003か月間、前月比10%増になってます。勘定合って(利益はあるのに)銭足らず(お金がない)になっていることと、その差額が運転資金であることを確認してみて下さい。

損益計算書7月8月9月10月11月12月13月14月累計
売上2002202422662662662662662,992
期首棚卸1501651822002002002002000
仕入1651822002002002002002002,447
期末棚卸165182200200200200200200200
売上原価1501651822002002002002002,247
固定費4040404040404040560
利益10152026262626 26 185
資金繰り表7月8月9月10月11月12月13月14月累計
売上収入/3か月2002002002002202422662662,194
仕入支出/翌月1501651822002002002002002,247
固定費支出/当月4040404040404040560
現金10△5△22△40△20226 26 △613
貸借対照表7月8月9月10月11月12月13月14月累計
売掛金600620662728774798798798798
在庫165182200200200200200200200
買掛金165182200200200200200200200
運転資金600620662728774798798798798
増加運転資金02042664624798

売上が増加した8月9月10月の3か月間利益が増えれば増えるほどお金が減っていく一見矛盾した現象が起こります。ですがこれが売上の増加局面で起こる現象になります。資金繰り表の色が濃い部分を見ると分かりますが増加した仕入れの支払いが先行し増加した売上の入金が追いついていません。11月に追いつき始めるので現金の減少幅が縮まり始めますがまだ完全には追いついていません。13月にようやく追いついて利益と現金が一致し資金繰りが安定します。それまでは資金不足になるので利益と現金との差額=増加運転資金198(20+42+66+46+24)の融資が必要になります。最終的に運転資金は798と当初の600から増加し、事業規模を拡大すると必要資金が増加することが分かります。

まとめ

いかがだったでしょうか?とかく利益にばかり目が行きがちですが、お金に影響するのは何も利益ばかりではありません。お金のスピードを決める運転資金も重要な要素になります。特に売上の増加局面で利益が増えれば増えるほどお金が減っていく現象は盲点になります。運転資金の理解なくしては対策できません。みなさん、運転資金にはくれぐれもご注意を。

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