会計

損益分岐点ならぬ収支分岐点。存続に最低必要な売上高の出し方

2020年2月15日

分岐点の標識

みなさん、自社の存続に最低必要な売上高について把握してますか?損益トントンの損益分岐点ではなく、「勘定合って銭足らず」にならない為のお金トントンの売上高です。

今回はそんな企業存続に最低必要な収支分岐点売上高の計算のしかたについて解説します。

キャッシュフロー(お金の流れ)

赤字が100万円あったとします。あと100万円売上を上げればその赤字は埋まるでしょうか?

感覚的に分るでしょうけど、当然100万円の売上だけでは赤字を埋めることは出来ません。売上の増加に比例して発生する変動費と税金という存在があるからです。100万円売上を増加したからといって100万円まるまる残りません100万円の赤字を埋めるためにはそれ以上の売上が必要になります。

まずは、そこらへんのお金の流れ(キャッシュフロー)について確認していきましょう。

まず損益構造を分析するために通常の損益計算書の費用を売上に比例して発生する変動費(商品仕入、材料仕入、外注費など)売上に比例せず定額で発生する固定費(給料、地代家賃、減価償却費、支払利息など)に分類し直します。そして下にある変動損益計算書とキャッシュフロー計算書を作ります。

変動損益計算書金額比率キャッシュフロー計算書金額
①売上高100100%⑦税引後利益(⑤-⑥)7
②変動費4040%⑧減価償却費5
③限界利益(①-②)6060%⑨償却前利益(⑦+⑧)12
④固定費50⑩借入金返済10
⑤税引前利益(③-④)10100%⑪キャッシュ増減(⑨-⑩)2
⑥法人税等330%
⑦税引後利益(⑤-⑥)770%※運転資本と設備投資は同額借入と仮定

お金の流れを上から順に見ていきます。①売上高100から始まって、②変動費40は商品仕入など①売上高に比例してかかります。③限界利益60は②変動費を引いた残りになります。右の40%と60%は①売上高に対する比率でそれぞれ変動比率(②変動費÷①売上高×100で計算)限界利益率(変動比率と表裏一体なので100%-変動比率で計算)と言います。変動比率40%、限界利益率60%ということは①売上高の40%は常に出て行ってしまい60%しか残らないということを意味します。④固定費50は家賃など①売上高に比例せず定額でかかります。⑤税引前利益10に⑥法人税等が30%の3(利益によって税率は変わります)かかるので、⑦税引後利益は70%の7しか残りません。ここまでが損益計算になります。しかしお金の流れはここで止まりません。右側のキャッシュフロー計算に続きます。⑦税引後利益7がお金の元になりますがお金の支出を伴わない⑧減価償却費※5が引かれていますので足し戻します。それが⑨償却前利益12でその企業が年間に生み出したお金になります。そこから⑩借入金返済10(これは元金部分です。利息部分は④固定費に計上)を差し引いた⑪キャッシュ増減2がお金の最終残になります。これがお金の流れになります。

※減価償却については以下の記事で意味、目的、「支出を伴わない費用」という特徴と「償却前利益」について解説していますので合わせてご覧下さい。

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お金の流れ(キャッシュフロー)を理解することによって次のことが分かります。

上と全く同じお金の流れ(キャッシュフロー)を再掲します。

変動損益計算書金額比率キャッシュフロー計算書金額
①売上高100100%⑦税引後利益(⑤-⑥)7
②変動費4040%⑧減価償却費5
③限界利益(①-②)6060%⑨償却前利益(⑦+⑧)12
④固定費50⑩借入金返済10
⑤税引前利益(③-④)10100%⑪キャッシュ増減(⑨-⑩)2
⑥法人税等330%
⑦税引後利益(⑤-⑥)770%※運転資本と設備投資は同額借入と仮定
まず分かるのは、仮にあと100売上を増やしても(売上高200になっても)

この損益構造だと②変動費が40%かかるので60%しか残りません。さらに⑥法人税等が30%かかるので70%しか残りません。最終的に100×60%×70%=42しか利益もお金も増えません。したがって冒頭の問いかけ100の赤字解消に100の売上増では足りないことが分かります。

それでは、仮に税引前利益が赤字になったとして解消するにはいくらの売上が必要か?

⑤税引前利益を0にして上のお金の流れを逆算していきます。⑤税引前利益0+④固定費50=③限界利益50、③限界利益50÷③限界利益率60%=①売上高83。売上高が83あれば利益が0になって赤字を解消できることが分かります。この費用を全部賄えて利益が0、いわゆる損益トントンになる売上のことを損益分岐点売上高と言います

それでは、損益トントンの利益0で大丈夫なのでしょうか?

お金の流れをもう一度見てみます。⑦税引後利益0+⑧減価償却費5-⑩借入金返済10=⑪キャッシュ増減△5 お金が5足りなくなり大丈夫ではありません最低限、最後の⑪キャッシュ増減が0になる売上を上げなければならないことが分かります。それがお金トントン、収支トントンの収支分岐点売上高になります

それでは次にその計算のしかたを見ていきましょう。

収支分岐点売上高の計算方法

予めお金トントン、収支トントンになるように変動損益計算書とキャッシュフロー計算書を作っておきました。

変動損益計算書金額比率キャッシュフロー計算書金額
①売上高95100%⑦税引後利益(⑤-⑥)5
②変動費3840%⑧減価償却費5
③限界利益(①-②)5760%⑨償却前利益(⑦+⑧)10
④固定費50⑩借入金返済10
⑤税引前利益(③-④)7100%⑪キャッシュ増減(⑨-⑩)0
⑥法人税等230%
⑦税引後利益(⑤-⑥)570%※運転資本と設備投資は同額借入と仮定

お金の流れを逆算していけば計算できます。お金トントン、収支トントンになる売上高を出すので、⑪キャッシュ増減を0にして逆算していきます。⑪キャッシュ増減0+⑩借入金返済10=⑨償却前利益10、⑨償却前利益10-⑧減価償却費5=⑦税引後利益5、⑦税引後利益5÷⑦70%=⑤税引前利益7、⑤税引前利益7+④固定費50=③限界利益57、③限界利益57÷③限界利益率60%=①売上高95。収支分岐点売上高は95と計算できます。

収支の分岐点ですので売上高が95ならトントン、95を超えればお金が増えていき、95に満たなければお金が減っていくことになります

今回は、存続に最低必要な売上高を計算しましたが、⑪キャッシュ増減に目標額を設定して逆算すれば目標売上高を計算することも出来ます個人事業の場合は⑪キャッシュ増減に生活費を設定して必要売上高を計算してみましょう

まとめ

いかがだったでしょうか?今回はお金の流れを理解して頂き、費用を賄える損益分岐点売上高だけでは不足で、借入金の返済まで含めて全て賄える収支分岐点売上高が必要だということ、それとその計算方法について解説しました。ぜひ自社の経営にご活用ください。

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