所得税

新品取得の非業務用資産を業務用に転用した場合の減価償却

2021年8月13日

新品転用

個人事業によくある非業務用資産(自宅やマイカー)の業務用(事務所や営業車)への転用 。前回は中古取得資産の転用について解説しましたが、今回は新品取得資産の転用について、減価償却の計算のしかた、留意点、具体例など詳しく解説します。

中古取得資産の転用については以下の記事をご覧ください。

新品取得資産を転用した場合の減価償却の流れ

新品で取得した非業務用資産(家事用資産)を業務用に転用した場合の減価償却の流れは以下の通りです。転用前と転用後で減価償却の計算のしかたが異なります。

  • 転用前(非業務用)の減価償却(減価の額)
    • 減価の額⇒旧定額法、法定耐用年数×1.5
    • 転用時未償却残高⇒取得価額ー減価の額
  • 転用後(業務用)の減価償却(減価償却費)
    • 減価償却費⇒選定した償却方法、法定耐用年数
    • 期末未償却残高⇒転用時未償却残高ー減価償却費

以下で転用前と転用後それぞれの減価償却の計算のしかたについて詳しく見ていきましょう。

転用前(非業務用)の減価償却(減価の額)

転用前(非業務用)の減価償却(減価の額)の計算のしかたは以下の通りです。減価の額は転用時の未償却残高を計算する為に計算します。減価の額自体は非業務用期間の減価償却なので当然必要経費にはなりません。

減価の額

  • 選定した償却方法、取得日にかかわらず全て旧定額法で計算
    取得価額×0.9×旧定額法償却率(注1)×非業務用期間の年数(注2)=減価の額(注3)

(注1)法定耐用年数×1.5(1年未満切捨)に応ずる償却率
(注2)新品取得日~転用日前日(1年未満5捨6入)
(注3)取得価額×95%が償却限度(取得価額×5%は転用後に5年均等償却)

留意点

  • 耐用年数⇒法定耐用年数×1.5で計算する(×1.5は非業務用は業務用より1.5倍もつという意味)。法定耐用年数ではない
  • 償却限度⇒減価の額は所得税法施行令第134条第2項(5年均等償却)の適用がないので、取得価額の95%が限度となる。95%に達した翌年以後5年均等償却ではない。(必ず転用時の簿価が取得価額の5%残る⇒転用後に5年均等償却、次の転用後で解説)

上記償却限度の留意点、減価の額は所得税法施行令第134条第2項(5年均等償却)の適用がない。転用後に5年均等償却の適用がある。という取扱いを確認したい方は、以下が国税庁ホームページからの抜粋とリンクになります。

国税庁ホームページからの抜粋
出典:No.2109 新築家屋等を非業務用から業務用に転用した場合の減価償却(国税庁ホームページ)

転用後(業務用)の減価償却(減価償却費)

転用後(業務用)の減価償却(減価償却費)の計算のしかたは以下の通りです。転用後は選定した償却方法で計算しますが、法定償却方法である定額法を前提に解説します。(定率法を選定していなければ自動的に法定償却方法である定額法になります)

減価償却費

  • 平成19年3月以前取得(新品取得日で判定)の資産は旧定額法で計算
    取得価額×0.9×旧定額法償却率(注1)×本年業務使用月数/12=減価償却費
    ※旧定額法は償却累計額が取得価額の95%に達した翌年以後は5年均等償却
  • 平成19年4月以後取得(新品取得日で判定)の資産は定額法で計算
    取得価額×定額法償却率(注1)×本年業務使用月数/12=減価償却費
  • ただし、転用前の減価の額が償却限度(取得価額×95%)に達した資産は5年均等償却で計算
    (取得価額×5%ー1)÷5×本年業務使用月数/12=減価償却費

(注1)法定耐用年数に応ずる償却率

留意点

  • 償却方法⇒旧定額法か定額法か(定率法を選定している場合は旧定率法か250%定率法か200%定率法か)判定する取得日は新品取得日を使う。業務転用日(事業供用日)ではない
  • 償却方法⇒転用前の減価の額が償却限度(取得価額×95%)に達した資産(必ず転用時の簿価が取得価額の5%残る)は5年均等償却になる。旧定額法、定額法ではない
  • 耐用年数⇒法定耐用年数で計算する。転用時点で中古になっているが中古資産の見積耐用年数ではない
  • 耐用年数⇒自宅兼事務所のように2以上の用途(住宅用、事務所用)に使用される建物は建物全体に主たる用途の耐用年数を適用する。(建物全体に1つの耐用年数)
    ・住宅使用割合>事務所使用割合→住宅用の耐用年数で計算
    ・住宅使用割合<事務所使用割合→事務所用の耐用年数で計算
    建物を用途別に区分して別々の耐用年数で計算ではない(特別な内部造作がある場合この方法も認められる)。事務所に転用したので事務所用の耐用年数で計算ではない

業務用(事務所や営業車)に転用後、非業務用(自宅やマイカー)にも使っている場合は家事関連費になりますので、その場合は上記で計算した減価償却費に事業割合を乗じた金額が必要経費になります。事業割合の具体的な計算のしかた(家事関連費の家事按分のしかた)について詳しくは以下の記事をご覧ください。

家族(同一生計親族)名義の非業務用資産(自宅やマイカー)を自分の業務用(事務所や営業車)に転用した場合も、自分のものと同じように上記計算で減価償却費を計上できます。同一生計親族名義の経費について詳しくは以下の記事をご覧ください。

具体例/自宅を一部事務所に転用(償却限度未達)

個人事業でよくあるケース、自宅を一部事務所に転用した場合の具体例を見ていきましょう。(転用前の減価の額が償却限度(取得価額×95%)に達していないケースになっています)

具体例

新築で取得した以下の自宅(非業務用)を一部事務所(業務用)に転用した。

  • 新築取得日:X1年3月10日、木造建物(法定耐用年数:住宅用22年、事務所用24年)、取得価額:2,000万円
  • 業務転用日:X6年10月1日、住宅使用割合90%、事務所使用割合10%

転用前(非業務用)の減価償却(減価の額)

  • 耐用年数:法定耐用年数22年×1.5=33年(1年未満切捨)
  • 償却率:33年⇒0.031(旧定額法償却率)
  • 非業務用期間の年数:新築取得日X1年3月10日~転用日前日X6年9月30日⇒5年6か月と21日⇒6年(1年未満5捨6入)
  • 減価の額:20,000,000円×0.9×0.031×6年=3,348,000円
  • 償却限度:20,000,000円×95%=19,000,000円>3,348,000円∴3,348,000円
  • 転用時未償却残高:20,000,000円ー3,348,000円=16,652,000円

転用時の仕訳
X6年10月1日(建物)/(事業主借)16,652,000円 自宅兼事務所 家事用から転用

転用後(業務用)の減価償却(減価償却費)

平成19年4月以後取得と仮定し定額法で計算

  • 耐用年数:住宅使用割合90%>事務所使用割合10%∴住宅用22年
  • 償却率:22年⇒0.046(定額法償却率)
  • 減価償却費(転用年)事業分:20,000,000円×0.046×3/12×10%=23,000円
  • 減価償却費(転用年)家事分:20,000,000円×0.046×3/12×90%=207,000円
  • 期末未償却残高(転用年):16,652,000円ー23,000円ー207,000円=16,422,000円

決算時の仕訳
X6年12月31日(減価償却費)/(建物)23,000円 事業分10% 当期償却
X6年12月31日(事業主貸)/(建物)207,000円 家事分90% 当期償却

(参考)自宅兼事務所(自宅兼店舗)の住宅ローン控除

自宅を事務所や店舗に転用した場合(自宅兼事務所、自宅兼店舗)の住宅ローン控除は居住用割合に応じ以下の通りです。

居住用割合住宅ローン控除
90%以上100%控除(事業分も控除可)
50%以上90%未満居住用割合控除
50%未満適用なし

上記具体例のケースでは居住用割合が90%以上なので減価償却費を10%計上していますが、その分も含め住宅ローン控除を100%控除できます。

具体例/マイカーを一部営業車に転用(償却限度到達)

こちらも個人事業でよくあるケース、マイカーを一部営業車に転用した場合の具体例を見ていきましょう。(転用前の減価の額が償却限度(取得価額×95%)に達しているケースになっています)

具体例

新車で取得した以下のマイカー(非業務用)を一部営業車(業務用)に転用した。

  • 新車取得日:X1年3月10日、普通自動車(法定耐用年数6年)、取得価額:200万円
  • 業務転用日:X11年9月1日、家事使用割合40%、事業使用割合60%

転用前(非業務用)の減価償却(減価の額)

  • 耐用年数:法定耐用年数6年×1.5=9年(1年未満切捨)
  • 償却率:9年⇒0.111(旧定額法償却率)
  • 非業務用期間の年数:新車取得日X1年3月10日~転用日前日X11年8月31日⇒10年5か月と22日⇒10年(1年未満5捨6入)
  • 減価の額:2,000,000円×0.9×0.111×10年=1,998,000円
  • 償却限度:2,000,000円×95%=1,900,000円<1,998,000円∴1,900,000円
  • 転用時未償却残高:2,000,000円ー1,900,000円=100,000円

転用時の仕訳
X11年9月1日(車両運搬具)/(事業主借)100,000円 普通自動車 家事用から転用

転用後(業務用)の減価償却(減価償却費)

減価の額が償却限度に達しているので5年均等償却

  • 減価償却費(転用年)事業分:(100,000円ー1)÷5×4/12×60%=3,999円
  • 減価償却費(転用年)家事分:(100,000円ー1)÷5×4/12×40%=2,666円
  • 期末未償却残高(転用年):100,000円ー3,999円ー2,666円=93,335円

決算時の仕訳
X11年12月31日(減価償却費)/(車両運搬具)3,999円 事業分60% 当期償却
X11年12月31日(事業主貸)/(車両運搬具)2,666円 家事分40% 当期償却

まとめ

いかがだったでしょうか。新品取得の非業務用資産(家事用資産)を業務用に転用した場合の減価償却。留意点は多いですが具体例のように順を追って計算すれば正しく計算できます。ご活用ください。

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