個人事業の場合、非業務用資産(自宅やマイカー)を業務用(事務所や営業車)に転用することはよくあることですが、中でも中古取得資産の転用は新品取得資産の転用と比べ減価償却の留意点が多く計算誤りを起こしやすい箇所になっています。
そこで今回は、そのような転用の中でも特に注意を要する中古取得資産の転用について、減価償却の計算のしかた、留意点、具体例など詳しく解説します。
新品取得資産の転用については以下の記事をご覧ください。
目次
中古取得資産を転用した場合の減価償却の流れ
中古で取得した非業務用資産(家事用資産)を業務用に転用した場合の減価償却の流れは以下の通りです。転用前と転用後で減価償却の計算のしかたが異なります。
- 転用前(非業務用)の減価償却(減価の額)
- 減価の額⇒旧定額法、法定耐用年数×1.5
- 転用時未償却残高⇒取得価額ー減価の額
- 転用後(業務用)の減価償却(減価償却費)
- 減価償却費⇒選定した償却方法、中古資産の見積耐用年数
- 期末未償却残高⇒転用時未償却残高ー減価償却費
以下で転用前と転用後それぞれの減価償却の計算のしかたについて詳しく見ていきましょう。
転用前(非業務用)の減価償却(減価の額)
転用前(非業務用)の減価償却(減価の額)の計算のしかたは以下の通りです。減価の額は転用時の未償却残高を計算する為に計算します。減価の額自体は非業務用期間の減価償却なので当然必要経費にはなりません。
減価の額
- 選定した償却方法、取得日にかかわらず全て旧定額法で計算
取得価額×0.9×旧定額法償却率(注1)×非業務用期間の年数(注2)=減価の額(注3)
(注1)法定耐用年数×1.5(1年未満切捨)に応ずる償却率
(注2)中古取得日~転用日前日(1年未満5捨6入)
(注3)取得価額×95%が償却限度(取得価額×5%は転用後に5年均等償却)
留意点
- 耐用年数⇒法定耐用年数×1.5で計算する(×1.5は非業務用は業務用より1.5倍もつという意味)。中古資産の見積耐用年数×1.5ではない。
- 償却限度⇒減価の額は所得税法施行令第134条第2項(5年均等償却)の適用がないので、取得価額の95%が限度となる。95%に達した翌年以後5年均等償却ではない。(必ず転用時の簿価が取得価額の5%残る⇒転用後に5年均等償却、次の転用後で解説)
上記償却限度の留意点、減価の額は所得税法施行令第134条第2項(5年均等償却)の適用がない。転用後に5年均等償却の適用がある。という取扱いを確認したい方は、以下が国税庁ホームページからの抜粋とリンクになります。
転用後(業務用)の減価償却(減価償却費)
転用後(業務用)の減価償却(減価償却費)の計算のしかたは以下の通りです。転用後は選定した償却方法で計算しますが、法定償却方法である定額法を前提に解説します。(定率法を選定していなければ自動的に法定償却方法である定額法になります)
減価償却費
- 平成19年3月以前取得(中古取得日で判定)の資産は旧定額法で計算
取得価額×0.9×旧定額法償却率(注1)×本年業務使用月数/12=減価償却費
※旧定額法は償却累計額が取得価額の95%に達した翌年以後は5年均等償却 - 平成19年4月以後取得(中古取得日で判定)の資産は定額法で計算
取得価額×定額法償却率(注1)×本年業務使用月数/12=減価償却費 - ただし、転用前の減価の額が償却限度(取得価額×95%)に達した資産は5年均等償却で計算
(取得価額×5%ー1)÷5×本年業務使用月数/12=減価償却費
(注1)中古資産の見積耐用年数に応ずる償却率
留意点
- 償却方法⇒旧定額法か定額法か(定率法を選定している場合は旧定率法か250%定率法か200%定率法か)判定する取得日は中古取得日を使う。業務転用日(事業供用日)ではない。
- 償却方法⇒転用前の減価の額が償却限度(取得価額×95%)に達した資産(必ず転用時の簿価が取得価額の5%残る)は5年均等償却になる。旧定額法、定額法ではない。
- 耐用年数⇒中古資産の見積耐用年数を使う。法定耐用年数は長いので不利。(原則は法定耐用年数、中古の見積は任意)
中古資産の見積耐用年数の計算のしかたは以下の通りです。
中古資産の見積耐用年数
- 法定耐用年数の一部を経過した資産
(法定耐用年数ー経過年数)+経過年数×20% - 法定耐用年数の全部を経過した資産
法定耐用年数×20%
(注1)経過年数は新品(新築日、新車登録日等)~中古取得日前日
(注2)1年未満切捨(最後に行う)、2年未満の場合は2年(最低2年)
留意点
- 経過年数は新品(新築日、新車登録日等)~中古取得日前日で計算する。中古取得日~転用日前日(非業務用期間)は含めない。
業務用(事務所や営業車)に転用後、非業務用(自宅やマイカー)にも使っている場合は家事関連費になりますので、その場合は上記で計算した減価償却費に事業割合を乗じた金額が必要経費になります。事業割合の具体的な計算のしかた(家事関連費の家事按分のしかた)について詳しくは以下の記事をご覧ください。
家族(同一生計親族)名義の非業務用資産(自宅やマイカー)を自分の業務用(事務所や営業車)に転用した場合も、自分のものと同じように上記計算で減価償却費を計上できます。同一生計親族名義の経費について詳しくは以下の記事をご覧ください。
具体例/転用時5年経過の中古軽自動車(償却限度未達)
転用前の減価の額が償却限度(取得価額×95%)に達していない場合の具体例を見ていきましょう。
具体例
中古で取得した以下のマイカー(非業務用)を営業車(業務用)に転用した。
- 新車登録日:X1年3月、軽自動車(法定耐用年数4年)
- 中古取得日:X2年4月10日、取得価額:100万円
- 業務転用日:X6年10月1日
転用前(非業務用)の減価償却(減価の額)
- 耐用年数:法定耐用年数4年×1.5=6年(1年未満切捨)
- 償却率:6年⇒0.166(旧定額法償却率)
- 非業務用期間の年数:中古取得日X2年4月10日~転用日前日X6年9月30日⇒4年5か月と21日⇒4年(1年未満5捨6入)
- 減価の額:1,000,000円×0.9×0.166×4年=597,600円
- 償却限度:1,000,000円×95%=950,000円>597,600円∴597,600円
- 転用時未償却残高:1,000,000円ー597,600円=402,400円
転用時の仕訳
X6年10月1日(車両運搬具)/(事業主借)402,400円 軽自動車 家事用から転用
転用後(業務用)の減価償却(減価償却費)
平成19年4月以後取得と仮定し定額法で計算
- 経過年数:新車登録日X1年3月~中古取得日前日X2年4月9日⇒1年2か月⇒14か月
- 耐用年数:(法定耐用年数48か月ー経過年数14か月)+経過年数14か月×20%=36.8か月⇒3.0年⇒3年(最後に1年未満切捨)
- 償却率:3年⇒0.334(定額法償却率)
- 減価償却費(転用年):1,000,000円×0.334×3/12=83,500円
- 期末未償却残高(転用年):402,400円ー83,500円=318,900円
決算時の仕訳
X6年12月31日(減価償却費)/(車両運搬具)83,500円 軽自動車 当期償却
具体例/転用時7年経過の中古軽自動車(償却限度到達)
転用前の減価の額が償却限度(取得価額×95%)に達している場合の具体例を見ていきましょう。
具体例
中古で取得した以下のマイカー(非業務用)を営業車(業務用)に転用した。
- 新車登録日:X1年3月、軽自動車(法定耐用年数4年)
- 中古取得日:X2年4月10日、取得価額:100万円
- 業務転用日:X8年11月1日
転用前(非業務用)の減価償却(減価の額)
- 耐用年数:法定耐用年数4年×1.5=6年(1年未満切捨)
- 償却率:6年⇒0.166(旧定額法償却率)
- 非業務用期間の年数:中古取得日X2年4月10日~転用日前日X8年10月31日⇒6年6か月と22日⇒7年(1年未満5捨6入)
- 減価の額:1,000,000円×0.9×0.166×7年=1,045,800円※
※減価の額が取得価額を超えることはないが、次の償却限度計算があるのでそのまま計算 - 償却限度:1,000,000円×95%=950,000円<1,045,800円∴950,000円
- 転用時未償却残高:1,000,000円ー950,000円=50,000円
転用時の仕訳
X8年11月1日(車両運搬具)/(事業主借)50,000円 軽自動車 家事用から転用
転用後(業務用)の減価償却(減価償却費)
減価の額が償却限度に達しているので5年均等償却
- 減価償却費(転用年):(50,000円ー1)÷5×2/12=1,666円
- 期末未償却残高(転用年):50,000円ー1,666円=48,334円
決算時の仕訳
X8年12月31日(減価償却費)/(車両運搬具)1,666円 軽自動車 当期償却
まとめ
いかがだったでしょうか。中古取得の非業務用資産(家事用資産)を業務用に転用した場合の減価償却。留意点は多いですが具体例のように順を追って計算すれば正しく計算できます。ご活用ください。