消費税では固定資産の取得に関してちょっと注意が必要です。仕入税額控除の調整という規定がある為取得して終わりではないからです。
そこで今回は調整対象固定資産に係る仕入税額控除の調整について解説します。
調整対象固定資産の仕入税額控除の調整とは
調整対象固定資産とは
調整対象固定資産・・・税抜100万円以上の固定資産
「仕入税額控除の調整」の対象になります。
固定資産についてなぜ仕入税額控除の調整を行うのか
建物や自動車などの固定資産は数年にわたって事業の用に供されます。その為会計や会計をベースに計算する法人税、所得税では固定資産の取得価額を取得した期にいっきに費用にするのではなく減価償却を通じて耐用年数にわたって分割で費用にします。
それに対し消費税では固定資産の取得に係る消費税を取得した期にいっきに仕入税額控除します。その為取得した期の課税売上割合や用途だけで仕入税額控除を完結させてしまうと、その後課税売上割合や用途が変わった場合に適切ではありません。
そこで数年にわたって使用される調整対象固定資産(税抜100万円以上の固定資産)の仕入税額控除は取得した期だけで完結させるのではなく、その後3年間の状況を見て仕入税額控除を調整するようになっています。
仕入税額控除の調整は取得時の計算により2種類ある
調整対象固定資産の仕入税額控除の調整は「課税売上割合が著しく変動した場合の調整」と「転用した場合の調整」の2種類あります。
どちらの調整になるかは調整対象固定資産の仕入税額控除を原則課税(一般課税)の計算方法のうち以下のどれで計算したかによって分かれます。
どちらの調整?
- 全額控除方式(課税売上高5億円以下かつ課税売上割合95%以上の場合)
・課税仕入×課税売上割合100%→「課税売上割合が著しく変動した場合の調整」 - 個別対応方式
・課税売上にのみ対応の課税仕入→「転用した場合の調整」
・非課税売上にのみ対応の課税仕入→「転用した場合の調整」
・課税売上・非課税売上に共通対応の課税仕入×課税売上割合→「課税売上割合が著しく変動した場合の調整」 - 一括比例配分方式
・課税仕入×課税売上割合→「課税売上割合が著しく変動した場合の調整」
課税売上割合を使った場合は「課税売上割合が著しく変動した場合の調整」、
課税売上割合を使わない場合は「転用した場合の調整」になります。
原則課税(一般課税)事業者が100万円以上の固定資産(調整対象固定資産)を取得した場合必ず2種類どちらかの調整対象になります。よって取得後3年間は調整の要件に該当しないか管理が必要になります。
免税事業者、簡易課税事業者が固定資産を取得した場合は調整はありません。よって取得後の管理も必要ありません。
令和2年度改正居住用賃貸建物については令和2年度改正で取得時の仕入税額控除と取得後の仕入税額控除の調整が上記とは別の取扱いとなりました。詳しくは以下の記事をご覧ください。
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課税売上割合が著しく変動した場合の調整
要件
課税売上割合が著しく変動した場合の要件
- 調整対象固定資産(注1)を取得
- 調整対象固定資産の仕入税額控除を比例配分法(注2)で計算
- 課税売上割合が著しく変動(注3)
- 第3年度の課税期間(注4)の末日に調整対象固定資産を有している(有していない場合は調整計算なし)
- 第3年度の課税期間(注4)が原則課税(免税事業者、簡易課税の場合は調整計算なし)
(注1)調整対象固定資産・・・税抜100万円以上の固定資産
(注2)比例配分法・・・全額控除方式、個別対応方式の共通仕入×課税売上割合、一括比例配分方式
(注3)課税売上割合が著しく変動・・・仕入課税期間以後3年間の通算課税売上割合が仕入課税期間の課税売上割合と比較して著しく変動(変動率50%以上かつ変動差5%以上)
(注4)第3年度の課税期間・・・仕入課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間
調整
上記要件に該当するときは第3年度の課税期間において以下の仕入税額控除の調整を行います。「3年目の調整計算」と言います。
3年目の調整計算
- 通算課税売上割合が著しく増加した場合、以下の金額を3年目の仕入税額控除に加算
調整対象固定資産に係る消費税×(通算課税売上割合-仕入課税期間の課税売上割合) - 通算課税売上割合が著しく減少した場合、以下の金額を3年目の仕入税額控除から減算
調整対象固定資産に係る消費税×(仕入課税期間の課税売上割合-通算課税売上割合)
具体例 課税売上割合が著しく増加した場合
建物取得に係る消費税100、取得年の課税売上割合40%、3年間の通算課税売上割合90%
- 取得年の仕入税額控除100×40%=40
- 3年目の仕入税額控除100×(90%-40%)=50加算→最終的な仕入税額控除90(通算課税売上割合90%)
具体例 課税売上割合が著しく減少した場合
建物取得に係る消費税100、取得年の課税売上割合100%、3年間の通算課税売上割合40%
- 取得年の仕入税額控除100×100%=100
- 3年目の仕入税額控除100×(100%-40%)=60減算→最終的な仕入税額控除40(通算課税売上割合40%)
転用した場合の調整
要件
転用した場合の要件
- 調整対象固定資産(注1)を取得
- 調整対象固定資産の仕入税額控除を課税業務用又は非課税業務用(注2)で計算
- 取得日から3年以内に転用(注3)
- 転用した課税期間が原則課税(免税事業者、簡易課税の場合は調整計算なし)
(注1)調整対象固定資産・・・税抜100万円以上の固定資産
(注2)課税業務用・・・個別対応方式の課税売上にのみ対応の課税仕入
非課税業務用・・・個別対応方式の非課税売上にのみ対応の課税仕入
(注3)転用・・・課税業務用から非課税業務用に転用又は非課税業務用から課税業務用に転用
調整
上記要件に該当するときは転用した課税期間において以下の仕入税額控除の調整を行います。
- 課税業務用から非課税業務用に転用した場合、以下の転用時期に応じて以下の金額を転用年の仕入税額控除から減算
- 非課税業務用から課税業務用に転用した場合、以下の転用時期に応じて以下の金額を転用年の仕入税額控除に加算
転用年の調整計算
- 取得日から1年以内に転用した場合
調整対象固定資産に係る消費税の3/3全額 - 取得日から1年超2年以内に転用した場合
調整対象固定資産に係る消費税の2/3 - 取得日から2年超3年以内に転用した場合
調整対象固定資産に係る消費税の1/3
具体例 課税業務用から非課税業務用に転用した場合
建物取得に係る消費税30
- 取得年の仕入税額控除30
- 転用年の仕入税額控除
1年以内に転用の場合30×3/3=30減算→最終的な仕入税額控除 0(0/3)
2年以内に転用の場合30×2/3=20減算→最終的な仕入税額控除10(1/3)
3年以内に転用の場合30×1/3=10減算→最終的な仕入税額控除20(2/3)
具体例 非課税業務用から課税業務用に転用した場合
建物取得に係る消費税30
- 取得年の仕入税額控除0
- 転用年の仕入税額控除
1年以内に転用の場合30×3/3=30加算→最終的な仕入税額控除30(3/3)
2年以内に転用の場合30×2/3=20加算→最終的な仕入税額控除20(2/3)
3年以内に転用の場合30×1/3=10加算→最終的な仕入税額控除10(1/3)
まとめ
いかがだったでしょうか?原則課税(一般課税)事業者が調整対象固定資産を取得するとその後3年間調整計算が必要ないか管理する必要があります。調整もれにご注意を。