消費税

棚卸資産の仕入税額控除の調整!免税⇔課税時注意

2020年7月7日

棚卸

みなさん、免税事業者から課税事業者になるとき、逆に課税事業者から免税事業者になるときは棚卸資産の調整計算が必要なのをご存知ですか?控除できたのにしてなかったり、控除できないのにしていたり、と誤りが多い箇所になります。

そこで今回は消費税の棚卸資産に係る仕入税額控除の調整について解説します。

棚卸資産の仕入税額控除の調整とは

消費税は「売上に係る消費税(預った消費税)-仕入に係る消費税(払った消費税)」で計算し、「売上に係る消費税」の納税と「仕入に係る消費税」の仕入税額控除はセットになっています。

ですが①免税事業者のときに仕入れた商品を課税事業者のときに売ると仕入税額控除はないのに「売上に係る消費税」の納税だけある状態になります。

また逆に②課税事業者のときに仕入れた商品を免税事業者のときに売ると仕入税額控除だけ受けて「売上に係る消費税」の納税がない状態になります。

このように免税事業者⇔課税事業者の切替時にバランスが崩れる「売上に係る消費税」の納税と仕入税額控除を対応させるために「棚卸資産の仕入税額控除の調整」があります。

①は「売上に係る消費税」の納税があるので仕入税額控除を追加し、②は「売上に係る消費税」の納税がないので仕入税額控除を除外する調整を行います。

免税事業者から課税事業者になる場合の調整

要件

免税⇒課税の場合の要件

  1. (前期)免税事業者で⇒(当期)課税事業者
  2. (当期)期首棚卸資産で免税事業者仕入分(課税仕入)がある
  3. (当期)原則課税(簡易課税の場合は調整計算なし)

調整

上記要件に該当するときは以下の金額を(当期)課税事業者の仕入税額控除に加算します。

免税⇒課税の場合の調整額

  • 期首棚卸資産で免税事業者仕入分に係る消費税
具体例 免税事業者から課税事業者になる場合の調整

(前々期)免税事業者⇒(前期)免税事業者⇒(当期)課税事業者

当期の期首棚卸資産に係る消費税100内訳
前々期仕入分20→免税事業者仕入分なので調整あり→当期の仕入税額控除20加算
前 期仕入分80→免税事業者仕入分なので調整あり→当期の仕入税額控除80加算

具体例 免税事業者から課税事業者になる場合の調整

(前々期)課税事業者⇒(前期)免税事業者⇒(当期)課税事業者

当期の期首棚卸資産に係る消費税100内訳
前々期仕入分20→課税事業者仕入分なので調整なし
前 期仕入分80→免税事業者仕入分なので調整あり→当期の仕入税額控除80加算

課税事業者から免税事業者になる場合の調整

要件

課税⇒免税の場合の要件

  1. (当期)課税事業者で⇒(翌期)免税事業者
  2. (当期)期末棚卸資産で当期仕入分(課税仕入)がある
  3. (当期)原則課税(簡易課税の場合は調整計算なし)

調整

上記要件に該当するときは以下の金額を(当期)課税事業者の仕入税額控除から減算します。

課税⇒免税の場合の調整額

  • 期末棚卸資産で当期仕入分に係る消費税

調整額が免税⇒課税の場合、免税事業者仕入分全額ですが、課税⇒免税の場合、課税事業者仕入分全額ではなく当期仕入分に限定(納税者有利)されていますので注意が必要です。

具体例 課税事業者から免税事業者になる場合の調整

(前期)課税事業者⇒(当期)課税事業者⇒(翌期)免税事業者

当期の期末棚卸資産に係る消費税100内訳
前期仕入分20→前期仕入分なので調整なし※
当期仕入分80→当期仕入分なので調整あり→当期の仕入税額控除80減算

※前期仕入分20は調整がない為(翌期)免税事業者のときに売却した場合、(前期)仕入税額控除だけ受けて(翌期)売上に係る消費税の納税がない状態になります。そこで原則課税事業者が取得した税抜1,000万円以上の棚卸資産(高額特定資産)については平成28年度改正で3年間原則課税を強制させることで売上に係る消費税を納税させる措置が講じられています。

具体例 課税事業者から免税事業者になる場合の調整

(前期)免税事業者⇒(当期)課税事業者⇒(翌期)免税事業者

当期の期末棚卸資産に係る消費税100内訳
前期仕入分20→前期仕入分なので調整なし※
当期仕入分80→当期仕入分なので調整あり→当期の仕入税額控除80減算

※前期仕入分20は調整がない為(翌期)免税事業者のときに売却した場合、(当期)「免税事業者から課税事業者になった場合の期首棚卸資産の調整」で仕入税額控除だけ受けて(翌期)売上に係る消費税の納税がない状態になります。そこで免税事業者が取得した税抜1,000万円以上の棚卸資産(高額特定資産)で「免⇒課の調整」を受けたものについては令和2年度改正で3年間原則課税を強制させることで売上に係る消費税を納税させる措置が講じられています。

上記平成28年度改正と令和2年度改正については以下の記事をご覧ください。

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まとめ

いかがだったでしょうか?意外と奥が深い棚卸資産の調整。控除もれ、控除しすぎにご注意を。

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